日本酒の精米歩合と造り|吟醸造りの基礎

日本酒の精米歩合と造り|吟醸造りの基礎

精米歩合とは、玄米に対する白米の重量の割合を指し、精米歩合60%というときは玄米の表層部を40%削り取ったことを意味する[2]。数値が低いほど米を多く磨いており、雑味の原因となる成分を取り除きやすいため、精米歩合50%以下まで磨いた米を使う大吟醸酒は、香味が澄んだ方向に振れやすいとされる基準が国税庁の告示に定められている[4]

目次

精米歩合とは何か

玄米から白米へ―精米歩合の定義

精米歩合とは、白米(玄米からぬか・胚芽等の表層部を取り去った状態の米)の重量が、もとの玄米の重量に対してどれだけ残っているかを示す割合である[1]。ここで「白米」とは、農産物検査法により3等以上に格付けされた玄米、またはこれに相当する玄米を精米したものを指す[1]。清酒の原料となる白米には、米こうじの製造に使う「こうじ米」も含まれる[1]。精米歩合という言葉は日本酒のラベルによく登場するが、その定義自体は国税庁が定める清酒の製法品質表示基準に基づいている[1][2]

数値が示す磨きの度合い

精米歩合60%という数値は、玄米の表層部を40%削り取り、残った60%の部分を白米として使うことを意味する[2]。数値が小さくなるほど、削り取る割合が大きくなり、米の中心部分だけが残っていく。一般家庭で日常的に食べている米は、精米歩合92%程度の白米であり、玄米の表層部を8%程度削り取ったものにすぎない[2]。これに対して清酒の原料米は、家庭用の食用米よりもはるかに深く磨かれているのが実情である。

清酒の原料に求められる精米歩合の目安

米の胚芽や表層部には、たんぱく質・脂肪・灰分・ビタミンなどが多く含まれており、これらは清酒の発酵に必要な成分ではあるものの、量が多すぎると清酒の香りや味を損なう原因になる[2]。そのため清酒の原料として米を使う際は、精米によってこれらの成分をあらかじめ減らした白米が用いられる[2]。国税庁の資料によれば、清酒の原料には精米歩合75%以下の白米が多く用いられているという[2]。家庭で日本酒を選ぶとき、ラベルの精米歩合の数字は、その酒がどれだけ米を磨き込んで造られているかを示す目安になる。

特定名称酒と精米歩合の関係

純米酒・本醸造酒という基本の区分

酒税法上、清酒とは米・米こうじ及び水を原料として発酵させ、こしたものなどをいい、アルコール分22度未満のものと定義されている[3]。この清酒のうち、白米・米こうじ・水のみを原料として、香味及び色沢が良好なものを純米酒と呼ぶ[1]。一方、白米・米こうじ・醸造アルコール及び水を原料とし、精米歩合70%以下で製造され、香味及び色沢が良好なものが本醸造酒である[1][2]。醸造アルコールを加えるかどうかと、精米歩合70%以下という数値要件の有無が、両者を分ける基本のラインになっている。

本醸造酒・特別本醸造酒の基準

本醸造酒の精米歩合は70%以下と定められている[1][2]。これに対して特別本醸造酒は、精米歩合60%以下、または特別な製造方法によるもので、その場合は説明表示が必要とされる[2]。特別純米酒についても同様に、精米歩合をもって説明表示する場合は精米歩合60%以下の場合に限られると規定されている[4]。つまり「特別」という名称は、精米歩合の数値だけで決まるわけではなく、製造方法の説明表示という条件とセットで運用されている。

こうじ米使用割合という条件

特定名称の清酒には、精米歩合以外にもう一つの条件がある。こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合)が15%以上であることが求められている[1][2]。この条件は純米酒・本醸造酒のいずれにも共通しており、精米歩合の数値表示だけを見ていると見落としやすいポイントである。ラベルに精米歩合の数字が大きく表示されていても、その裏には米こうじの使用割合という別の基準が働いていることを知っておくと、表示の意味を正確に読み取りやすくなる。

家庭で日本酒のラベルを眺めるとき、精米歩合の数字ばかりに目が行きがちだが、こうじ米の使用割合や醸造アルコールの有無といった条件が組み合わさって名称が決まっている点は、意外と見落とされやすいと感じる。数字一つだけで酒の性格を決めつけず、複数の条件を合わせて読む姿勢が実用的である。

吟醸造りの基礎

大吟醸酒と精米歩合50%以下という基準

国税庁の告示では、吟醸酒のうち精米歩合50%以下の白米を原料として製造し、固有の香味及び色沢が特に良好なものに「大吟醸酒」の名称を用いることができるとされている[4]。吟醸酒は精米歩合60%以下と定められており[1]、そこからさらに深く磨いた精米歩合50%以下の酒だけが大吟醸酒と呼べる[4]。大吟醸酒という名称が、単なる香味の良し悪しではなく、精米歩合という数値要件を含んで成り立っていることがここから分かる。

純米吟醸酒という呼び方

吟醸酒のうち、米・米こうじ及び水のみを原料として製造したものには「純米」の用語を併せて用いることができる[4]。これが一般に純米吟醸酒と呼ばれる酒に相当する。つまり「吟醸」という製法上の系統と、「純米」という原料上の系統は、それぞれ独立した条件であり、両方を満たしたときに純米吟醸酒という表示が成立する構造になっている。大吟醸酒についても同様に、純米の原料要件を満たせば純米大吟醸酒という表示につながる関係にある。

特別純米酒・特別本醸造酒という説明表示

特別純米酒または特別本醸造酒の名称は、純米酒または本醸造酒のうち、香味及び色沢が特に良好であり、かつその旨を使用原材料・製造方法その他の客観的事項によって容器や包装に説明表示するものに用いられる[4]。精米歩合をもって説明表示する場合は、精米歩合60%以下であることが条件になる[4]。つまり「特別」という言葉は、単に美味しいという主観的な評価ではなく、根拠を示す説明表示があってはじめて使える名称である点が、大吟醸酒の精米歩合要件とは異なる仕組みになっている。

吟醸や大吟醸という言葉は華やかな響きを持つが、その中身は精米歩合の数値と説明表示という、地味だが具体的な条件の積み重ねだと分かると、ラベルの見方が少し変わってくる。家庭で選ぶ際も、名称の響きだけでなく背景の条件を意識すると理解が深まる。

麹と酒母の役割

米こうじの働きと使用割合の規定

米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでん粉を糖化させることができるものをいう[1]。日本酒の醪(もろみ)の中では、米のでん粉がそのまま酵母のエサになるわけではなく、こうじが持つ酵素によってまず糖に分解される必要がある。特定名称の清酒では、このこうじ米の使用割合が白米の重量に対して15%以上であることが条件として定められている[1][2]。こうじの量が少なすぎると糖化が十分に進まず、発酵全体のバランスが崩れやすくなるため、この15%以上という下限が実務上の目安になっている。

酒母(もと)の役割

酒母(もと)は、蒸した米・水・こうじに酵母を加えて培養したもので、その後の醪の発酵を安定して進めるための土台となる。酒母の段階で酵母の数を十分に増やし、他の微生物の増殖を抑えた状態を作ってから、大きな仕込み(醪)に移すのが一般的な流れとされる。伝統的な酒母の造り方として生酛や山廃といった手法が知られており、いずれも人工的な乳酸添加に頼らず、自然に生成される乳酸によって雑菌の増殖を抑える点に特徴があるとされる。

並行複発酵という日本酒特有の仕組み

日本酒の発酵で特徴的なのは、こうじによる糖化と酵母による酒化が、同じ醪の中で同時に進行する点である。ビールのように糖化と発酵の工程を分けて行う単行複発酵とは異なり、日本酒はこの二つの反応を並行して進める並行複発酵という方式を採る。こうじの働きが弱まればアルコール発酵も鈍り、逆にこうじが強すぎれば糖が過剰になり味のバランスを崩す。こうじと酒母という二つの要素が、精米歩合という原料側の条件と組み合わさって、最終的な清酒の香味を形づくっていく。

精米歩合が味に与える影響

表層部の成分と香味への影響

米の胚芽や表層部に多く含まれるたんぱく質・脂肪・灰分・ビタミンなどは、発酵に必要な成分である一方、量が多すぎると清酒の香りや味を悪くする原因になるとされている[2]。精米歩合を下げて表層部を多く削り取ることは、この過剰な成分を減らす方向の作業であり、結果として雑味の少ない酒質を目指しやすくなる。裏を返せば、精米歩合が高め(磨きが浅め)の米を使う純米酒や本醸造酒は、表層部の成分がある程度残るため、米由来のふくよかな風味が出やすい傾向があるといえる。

精米歩合と関連する基準の一覧

これまでの数値要件を整理すると、以下のようになる。

精米歩合の目安対応する分類・用途出典
約92%一般家庭で食べる食用米(玄米の表層部を8%程度削り取る)[2]
75%以下清酒原料として多く用いられる白米の目安[2]
70%以下本醸造酒の要件[1][2]
60%以下吟醸酒の要件、特別本醸造酒、または特別純米酒を精米歩合で説明表示する場合の基準[1][2][4]
50%以下大吟醸酒の要件[4]

この表からも分かるように、精米歩合の数値は上から下へいくほど小さくなり、それぞれの段階に対応する名称や表示条件が国税庁の告示によって定められている[1][2][4]

選び方と楽しみ方の目安

精米歩合の数値だけを基準に「低いほど良い酒」と単純化するのは早計である。精米歩合が高めの純米酒や本醸造酒には、米の風味をしっかり残した味わいが期待できる一方、精米歩合を大きく下げた大吟醸酒には、雑味を抑えた繊細な香味が期待できるという方向性の違いにすぎない[2][4]。家庭で日本酒を選ぶ際は、精米歩合の数字とこうじ米使用割合・醸造アルコールの有無といった複数の条件を合わせて見ることで、ラベルの表示が指し示す酒の性格をより具体的に想像しやすくなる。なお、清酒を含むアルコール飲料は20歳未満の飲酒および飲酒運転が法律で禁止されている。妊娠中・授乳中の飲酒については、胎児や乳児への影響が指摘されており、控えることが強く推奨されている。服薬中の場合は、アルコールとの相互作用について医師に相談する必要があり、精米歩合や特定名称にかかわらず、飲酒量は節度ある範囲にとどめることが基本になる。

結論

精米歩合とは、玄米に対する白米の重量割合であり、その数値が清酒の分類名称や香味の方向性を左右する基礎的な指標である[1][2]。本醸造酒の70%以下、特別本醸造酒や特別純米酒の説明表示に関わる60%以下、大吟醸酒の50%以下という数値は、いずれも国税庁の告示によって具体的に定められている[1][2][4]。一方で、こうじ米使用割合15%以上という条件[1][2]や、米こうじ・酒母が担う糖化と発酵の仕組みは、精米歩合という数値だけでは見えてこない造りの内側にあたる。家庭で日本酒のラベルを手に取るときは、精米歩合の数字を出発点にしつつ、純米か本醸造か、特別な説明表示があるかといった複数の条件を合わせて読むことを、次の一歩として勧めたい。

参考文献

  1. 国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件」
    https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/seishu/kokuji891122/03.htm
  2. 国税庁「清酒の製法品質表示基準」の概要(特定名称8種の要件・精米歩合の定義)
    https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm
  3. 酒税法(e-Gov法令検索)第3条第7号 清酒の定義
    https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=328AC0000000006
  4. 国税庁「酒類の表示の基準における重要基準を定める件」の概要(別紙=清酒の製法品質表示基準・最終改正 令和元年6月時点)
    https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/kijun/gaiyo/04.htm

この記事を書いた人

お酒を飲むより、度数や製法を調べて表にするほうが好きかもしれない、データ気質の編集ラボです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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