運動・スポーツと飲酒|公的にわかる範囲で

運動・スポーツと飲酒|公的にわかる範囲で

運動後の飲酒は脱水の悪化や筋肉の回復阻害につながる可能性があり、公的資料は積極的には勧めていない。アルコールには利尿作用があり、摂取したエタノール1gあたり尿量が10mL程度増えるという報告があるほか[5]、飲酒中・飲酒後の運動は血圧の変動を強め、心筋梗塞や転倒による身体の損傷につながる可能性があると厚生労働省の資料で指摘されている[1]。運動直後にビールで喉を潤す場面は多いが、水分補給としての働きは本来の飲料水とは異なる。

目次

運動とお酒の関係を、まず公的資料で確認する

法律上の禁止と健康上の注意は分けて考える

20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されている。妊娠中・授乳中の飲酒は法律で禁止されているわけではないが、胎児・乳児への影響が指摘され、厚生労働省が控えるよう強く推奨しているものである[1]。服薬中の飲酒も法律上の禁止事項ではなく、医師に相談すべき事柄として扱われる。運動と飲酒の組み合わせについても、法的な禁止ではなく、体への負担という観点から公的資料が注意を促している点として区別して読む必要がある。

厚生労働省が示す「運動と飲酒」への注意

厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添は、飲酒中または飲酒後における運動・入浴などの体に負担のかかる行動について、血圧の変動が強まることなどによって心筋梗塞などを引き起こす可能性や、転倒などにより身体の損傷を引き起こす可能性があると述べている[1]。運動と飲酒のどちらも体への負荷として扱う視点であり、運動後に飲酒を重ねる場面ほど、この負荷が積み重なりやすいと理解しておきたい。

家庭で運動と晩酌を両方楽しむ生活者の立場から見ると、運動直後にビールを開けたくなる場面は少なくない。ただ公的資料が示す血圧変動や転倒のリスクを踏まえると、時間を空けるという判断は特別なことではなく、体への負荷を分散させる工夫の一つとして捉えられる。

運動後に飲酒すると体で何が起きるか

アルコールの利尿作用と脱水

運動でかいた汗によって体内の水分が失われた状態で飲酒すると、アルコールの利尿作用が重なる。Barnes(2010)のレビューは、アルコールが強力な利尿薬として作用することは歴史的に認識されており、1948年には摂取したエタノール1gあたり尿量が約10mL増加するという報告があったとし、その機序(抗利尿ホルモンの抑制)は後になって特定されたと説明している[5]。運動後の発汗による水分損失に、アルコール摂取による尿量増加が加わる形になるため、体内の水分収支はより不利な方向に動きやすい。

汗をかいても「早く抜ける」わけではない

厚生労働省 e-ヘルスネットは、汗をたくさんかいたり水をたくさん飲んだりするとアルコールが速く抜けると考えるのは誤りだと明確に述べている[2]。呼気(0.7%)や汗(0.1%)、尿(0.3〜4%)からもわずかなアルコールが排出されるが、代謝のほとんどは肝臓で行われる[2]。アルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)とミクロゾームエタノール酸化系(MEOS)によってアセトアルデヒドになり、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸になる。酢酸は肝臓外、主に筋肉などの組織で代謝されるとされ[2]、運動後の発汗そのものが肝臓での代謝速度を変えるわけではない。

筋肉の回復とアルコール摂取

筋タンパク質合成への影響(査読研究)

運動後の筋肉の修復では、筋タンパク質合成(myofibrillar protein synthesis, MPS)の働きが研究対象になっている。Parrら(2014)は、レジスタンス運動を含む一回の複合的な運動のあとに、糖質またはタンパク質とともにアルコールを摂取する条件を設定したランダム化クロスオーバー試験を、身体活動量の多い男性8名を対象に実施した[6]。この研究は運動後の筋タンパク質合成の最大速度にアルコール摂取がどう影響するかを検証したものであり、運動直後の飲酒が回復過程のタンパク質代謝に関わりうることを示す知見として位置づけられる。対象人数が8名と限られる小規模な試験であり、この結果だけで断定的な結論を導くのは避けたい。

運動後の体調確認という視点

厚生労働省 e-ヘルスネットの情報シートは、身体活動・運動を安全に行う際に確認すべき事項として次の5点を挙げている[3]

  • 普段からの健康管理
  • 新たに運動を始める前の基礎疾患・内服薬の確認
  • 毎回の運動前の体調確認とウォームアップの実施
  • 運動中の体調確認
  • 運動後の体調確認とクールダウンの実施

飲酒はこれらの体調確認やクールダウンと並行して行う行動ではなく、これらを済ませたうえで判断する事柄として位置づけて考えるのが妥当である。

家庭で筋トレやランニングを続けている立場から見ると、運動直後の一杯は気持ちの切り替えになりやすい。ただ筋タンパク質合成に関わる研究[6]を踏まえると、回復を優先したい日は、飲酒の時間を運動から離すという選択も一つの考え方になる。

水分補給の考え方

運動でかいた汗をどう補うか

「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の推奨シート(成人版)は、強度が3メッツ以上の運動を週4メッツ・時以上、具体的には息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上行うことを推奨している[4]

  • 3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上(歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上、1日約8,000歩以上に相当)
  • 3メッツ以上の運動を週4メッツ・時以上(息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上)
  • 筋力トレーニングを週2〜3日

この程度の運動であっても発汗による水分損失は起こるため、運動後にまず水分を補う判断が基本になる[4]。アルコール飲料は水分を含むものの、前述の利尿作用により体内に留まる水分量は、単純な摂取量から期待されるより少なくなりやすい[5]

お酒は水分補給の代わりにならない

厚生労働省 e-ヘルスネットが示すとおり、アルコール代謝の中心は肝臓であり、汗や尿からの排出はごくわずかにとどまる[2]。この仕組みから見ても、運動後にまず必要なのは水などによる水分補給であり、アルコール飲料をその代替として位置づけることは適切ではない。運動直後にビールやサワーで喉を潤す習慣がある場合も、先に水を飲んでから、という順序を意識するだけで体内の水分収支に配慮した行動になる。

飲酒のタイミングと量の目安(公的データの範囲で)

運動直後を避けるという考え方

厚生労働省の資料は、飲酒中または飲酒後の運動・入浴のような体に負担のかかる行動について、血圧の変動が強まることなどにより心筋梗塞などのリスクや転倒による損傷のリスクを挙げている[1]。運動直後の体は血流や体温の調整が普段と異なる状態にあり、そこに飲酒を重ねるタイミングを避け、時間を空けてから飲酒するという考え方は、この資料の趣旨に沿っている。

純アルコール量と疾病リスクの公的データ

厚生労働省の資料は、疾病別の発症リスクと飲酒量(純アルコール量)の関係を、研究結果に基づく参考値として示している[1]

疾病男性女性
脳卒中(出血性)[1]150g/週(20g/日)0g<
脳卒中(脳梗塞)[1]300g/週(40g/日)75g/週(11g/日)
高血圧[1]0g<0g<

この表が示す値は、各疾病について発症リスクが上がり始める目安として研究結果に基づき示された参考値であり[1]、個人の体質や運動習慣によって影響の出方は異なる。数値そのものを絶対的な安全域として読むのではなく、量を抑える方向の判断材料として受け止めたい。

服薬中・持病がある場合の注意

厚生労働省の資料は、服薬後に飲酒した場合、薬の効果が弱まったり副作用が生じることがあると述べ、飲酒の可否や量・回数を減らすべきかの判断は主治医に尋ねる必要があるとしている[1]。運動を習慣にしている人の中には、血圧や心臓に関する薬を服用している場合もあり、そうした人が運動後に飲酒するかどうかを考える際は、この確認を欠かすべきではない。

結論

公的資料の範囲で言えることは限られているが、要点は絞り込める。運動と飲酒を同時または近い時間に重ねると、血圧変動や転倒のリスクが指摘されている一方で[1]、アルコールの利尿作用は運動でかいた汗による水分損失に追い打ちをかける[5]。汗や尿からの排出はごくわずかで、代謝の大部分は肝臓が担うため、汗をかけば酔いが早く抜けるという理解は誤りである[2]。運動後の回復に関わる筋タンパク質合成についても、アルコール摂取が影響しうるとする研究がある[6]。家庭で運動と晩酌を両立させたい場合、運動直後ではなく数時間の間隔を空け、先に水分と食事で回復を進めたうえで飲酒するかどうかを考える、という順序が公的資料の趣旨に近い。持病や服薬中の場合は、その判断を自己判断だけで進めず、主治医への確認を優先したい。

参考文献

  1. 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添(2024年2月)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-02-002.html
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:身体活動・運動を安全に行うためのポイント」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-008.html
  4. 厚生労働省 e-ヘルスネット「「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-002.html
  5. Barnes MJ. Alcohol, Athletic Performance and Recovery. Nutrients 2010;2(8):781-789(PMC3257708)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3257708/
  6. Parr EB, et al. Alcohol Ingestion Impairs Maximal Post-Exercise Rates of Myofibrillar Protein Synthesis following a Single Bout of Concurrent Training. PLoS ONE 2014(PMC3922864)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3922864/

この記事を書いた人

お酒を飲むより、度数や製法を調べて表にするほうが好きかもしれない、データ気質の編集ラボです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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