ストレス飲み・メンタルとお酒|公的な視点で

ストレス飲み・メンタルとお酒|公的な視点で

ストレスを解消するための飲酒(いわゆるやけ酒)は、続けるほど依存症になる可能性を高め、眠りを浅くして睡眠リズムを乱しうると厚生労働省が注意を促している[3]。一時的に気分が軽くなったように感じても、飲酒を重ねるほど脳はアルコールへの耐性を強め、同じ効果を得るために酒量が増えていく仕組みがある[2]。ビールでもワインでもウイスキーでも、酒類そのものの種類にかかわらずこの仕組みは共通しており、対処としての飲酒には注意が必要とされている。

目次

ストレス対処としての飲酒に潜む注意点(公的な見方)

不安や不眠を紛らわすための飲酒は、日常のなかで比較的起こりやすい行動である。しかし公的な資料では、この飲み方そのものにリスクがあると位置づけられている。

不安・不眠解消のための飲酒がはらむ問題

厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添は、不安や不眠を解消するための飲酒について明確に注意を促している[3]。同資料は、不安の解消のための飲酒を続けることによって依存症になる可能性を高めたり、飲酒により眠りが浅くなり睡眠リズムを乱す等の支障をきたすことがあるとしている[3]。寝つきをよくする目的でビールやハイボールを寝酒として飲む習慣は珍しくないが、この資料が指摘しているのは、その習慣が続くこと自体が睡眠の質を損ねる方向に働きうるという点である。

「やけ酒」がうまくいかない理由

嫌なことがあった日に飲んで気分を切り替えようとする行動は「やけ酒」と呼ばれ、広く経験されている。この行動を研究の側から見ると、ネガティブな感情に対処するために飲酒するパターンは、その場しのぎの性質ゆえにかえって苦痛を長引かせ、飲酒が続く悪循環を生み、最終的には依存や離脱症状につながるとするコーピング理論のモデルが示されている[5]。つまり「飲んで忘れる」という行為が、翌日に同じストレスへの耐性を下げてしまい、次の飲酒を呼び込みやすくするという構造である。編集部として家庭で酒を楽しむなかでも、嫌な一日の終わりに酒量が増えやすい感覚は共有できるところであり、その感覚自体が上記の悪循環と地続きにあるという理解は、飲み方を見直す材料になり得る。

飲酒とうつ・メンタル不調の関係

ストレスとの関連で語られることが多いのが、うつ病と飲酒の結びつきである。厚生労働省のe-ヘルスネットは、この関係をいくつかのパターンに整理している。

うつ病とアルコール依存症、合併のパターン

e-ヘルスネットによれば、うつ病とアルコール依存症の合併には次のようなパターンが考えられるとされている[1]

  • ストレスや性格、遺伝因子など、単なる合併または共通の原因による場合
  • 長期の大量飲酒がうつ病を引き起こした場合
  • うつ病の症状である憂うつ気分や不眠を緩和しようとして飲酒した結果、依存症になった場合
  • アルコール依存症の人が飲酒をやめることで生じる離脱症状のひとつとして、うつ状態がみられる場合

さらに同資料は、うつ病が先行してアルコール依存症を合併する場合を一次性うつ病、アルコール依存症が先行してうつ病を合併する場合を二次性うつ病と呼ぶこともあると説明している[1]。ストレスで気分が落ち込んだときに飲酒量が増える背景には、こうした複数の経路が存在しうるということになる。

飲酒はうつ病の経過にどう影響するか

うつ病の人の飲酒がうつ病の経過そのものに影響するかどうかについては、専門家の間でも意見が分かれているという[1]。ただし、飲酒の問題があることでうつ病の改善率が低下するという指摘も存在しており[1]、少なくとも「飲酒がうつ病の回復を助ける」という方向の公的な見解は確認できない。ストレスによる憂うつな気分を飲酒でやり過ごす行為は、短期的な気晴らしにはなり得ても、症状の改善という観点では裏付けを欠いた行動だといえる。

依存症に至るプロセスと危険因子

ストレス対処としての飲酒がなぜ危険視されるのかを理解するには、依存症がどのように形成されるかを知る必要がある。

耐性・精神依存・身体依存という三段階

e-ヘルスネットの説明によれば、アルコールには依存性があり、麻薬・覚せい剤・タバコ・睡眠薬などと同じようなプロセスを経て依存症という病気に至るとされている[2]。具体的には、習慣的な飲酒によってまず耐性が形成される。耐性とは、同じ量の飲酒でも効きにくくなる状態を指し、いわゆる「酒に強くなった」という感覚であり、この段階では同じ酔いを得るために酒量が徐々に増加していく[2]。その先に現れるのが精神依存で、これは「酒が欲しくなる」という欲求そのものを指す症状である[2]。同資料はアルコール依存症を、酔って問題を起こすこととは別のものだと明確に区別しており、飲酒のコントロールができなくなり、身体・仕事・家族関係などに多くの問題が生じる状態を依存症と定義している[2]

依存症になりやすい人の特徴(危険因子)

e-ヘルスネット「アルコール依存症の危険因子」は、依存症のなりやすさに関わる要因をいくつか挙げている。まず、うつ病・不安障害・注意欠陥多動性障害といった精神疾患を抱えている人は、アルコール依存症の危険性が高まるとされる[6]。これは、飲酒によってこれらの症状を緩和しようとする行動が背景にあると説明されているが、同資料は飲酒するとかえってうつ病の治りが悪くなったり、飲酒に関連した問題を起こしやすくなったりするため注意が必要だとも述べている[6]。また、ニコチン依存とアルコール依存は互いによく合併することが知られており、ギャンブルや違法薬物といった他の依存もアルコール依存症の危険性を高めるという[6]。加えて、アルコール飲料の価格や入手しやすさ、メディアによる宣伝といった環境要因も、未成年者の飲酒問題の危険性を高める要因として挙げられている[6]

以下は、ここまで紹介した公的資料の要点を整理したものである。

論点公的資料の指摘出典
不安・不眠解消目的の飲酒続けることで依存症リスクが高まり、睡眠リズムも乱れうる[3]
うつ病との合併共通原因型・大量飲酒先行型・症状緩和型・離脱症状型の合併パターンがある[1]
依存形成の過程耐性形成→精神依存→身体依存という段階を経る[2]
依存症の危険因子うつ病・不安障害等の精神疾患、ニコチン依存等の合併、環境要因[6]

依存症が生活に及ぼす影響と家族の負担

依存症は本人だけの問題にとどまらず、周囲の生活にも影響を及ぼすことが公的資料から読み取れる。

依存症とはどういう状態か

繰り返しになるが、e-ヘルスネットはアルコール依存症を「酔って問題を起こすこと」とは異なるものだと定義している[2]。飲酒のコントロールができなくなり、身体・仕事・家族関係などの多くの問題が起きる状態こそが依存症であり、単に酔って失敗した経験があるかどうかとは別次元の話である[2]。ストレス発散のつもりで始めた飲酒が、いつの間にか自分の意思では止められない状態に変わっている場合、それは依存症という病気の枠組みで捉える必要がある。

家族・周囲が抱える負担

厚生労働省の依存症対策のページは、本人が自らの状態を認識することの難しさに加え、家族もまた大きな負担を抱えている実情に触れている。家族はアルコールによる暴力やギャンブルによる借金の尻ぬぐいなどに翻弄され、本人以上に疲弊するケースが多くみられるという[4]。ストレス対処としての飲酒が慢性化した場合、その影響を最初に受けるのは本人よりも身近な家族であることが少なくない、という視点は覚えておく価値がある。

飲酒に頼らないための考え方と相談先

ストレスへの対処法として飲酒だけに頼らない姿勢は、依存症の予防という観点から重要視されている。

一人で抱え込まないという原則

厚生労働省の依存症対策ページは、家族や友人など周りの人が依存症について正しい知識と理解を持ち、当事者を早めに治療や支援につなげることが依存症の予防と回復にとって大事な一歩だと述べている[4]。同時に、本人が自分の状態を認識することは困難であるとも指摘されており[4]、ストレス飲みが習慣化している自覚がある場合、周囲や専門機関の視点を借りることに意味がある。飲酒によって不安や不眠を紛らわす行為が長引くほど依存症のリスクが上がるという先述の指摘[3]を踏まえれば、早い段階で飲酒以外の相談先を持っておくことは、行動を変える上での現実的な選択肢になる。

心配なときの相談窓口

厚生労働省は、本人あるいは家族や知人が「依存症かもしれない」と感じた場合、一人で抱え込まず、また一人で解決しようとせずに、まずは「保健所」や「精神保健福祉センター」に相談するよう案内している[4]。相談先の候補を整理すると次のようになる。

  • 最寄りの保健所(生活習慣や健康全般の相談窓口として利用できる)
  • 精神保健福祉センター(依存症を含む精神保健に関する専門的な相談窓口)
  • 主治医(病気療養中や服薬中の場合は、飲酒の可否や量について医師に確認する必要がある[3]

なお、病気などで療養中の飲酒は過度な飲酒により免疫力が低下し感染症にかかりやすくなる可能性が指摘されており、服薬後の飲酒は薬の効果を弱めたり副作用を生じさせたりすることがあるため、量や回数を減らすべきかどうかの判断は主治医に確認する必要があるとされている[3]。持病がある場合や服薬中の場合は、この記事の内容にかかわらず、必ず医師に相談したうえで飲酒の可否を判断してほしい。

結論

ストレス対処としての飲酒は、不安や不眠を一時的に紛らわせる感覚を与える一方で、続けるほど依存症のリスクを高め、睡眠のリズムを乱しうるというのが公的資料の一貫した立場である[3][2]。うつ病との合併パターンは一つではなく、ストレスという共通原因から始まる場合もあれば、症状緩和のための飲酒がきっかけで依存症に至る場合もある[1]。編集部としても、家庭で酒を楽しむ立場から見て、疲れた日の一杯そのものを否定するつもりはないが、それが「嫌なことを忘れるための手段」として固定化していないかは時折振り返る価値があると感じている。気分の落ち込みや不眠が続くと感じたときは、飲酒量を増やす前に、保健所や精神保健福祉センターといった公的な相談窓口の存在を思い出してほしい[4]

参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールとうつ、自殺」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-006.html
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと依存」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-05-001.html
  3. 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添(2024年2月)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
  4. 厚生労働省「依存症対策」(相談機関・医療提供体制)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html
  5. Drinking to Cope Motivation as a Prospective Predictor of Negative Affect(PMC4495075)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4495075/
  6. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコール依存症の危険因子」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-05-003.html

この記事を書いた人

お酒を飲むより、度数や製法を調べて表にするほうが好きかもしれない、データ気質の編集ラボです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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