ワインの製法は、葡萄を破砕して得た果汁を酵母でアルコール発酵させ、木製容器での熟成を経て瓶詰めする工程をたどる。赤ワインは果皮や種を果汁に浸したまま発酵させて色素とタンニンを抽出し、白ワインは果汁だけを発酵させる点が最大の違いである。この違いを知ると、赤と白で渋みや色の濃さが変わる理由が見えやすくなり、ラベルを見たときの味の見当も付けやすくなる。
収穫 ― ぶどうの状態を見極める工程
糖度と酸度のバランスを見る
収穫のタイミングは、その年のワインの骨格を決める最初の判断である。ぶどうの糖度が上がるほど発酵後のアルコール度数は高くなりやすく、酸度が下がるほど味わいは丸くなる傾向があるため、栽培者は両者のバランスを見ながら収穫日を決めるとされる。天候による糖度・酸度の変化を追いながら収穫を待つ判断は、雨で果実が水を吸って味が薄まる、あるいは過熟で酸が落ちすぎるといったリスクとの綱引きにもなる。糖と酸のどちらを優先するかは造りたいワインのタイプによって変わるため、同じ品種でも収穫時期は年ごと、畑ごとに異なる。
手摘みと機械摘みの選択
収穫方法には、人の手で摘む手摘みと、収穫機を使う機械摘みがある。手摘みは房の状態を見ながら選別できるため、傷んだ粒や未熟な粒を取り除きやすい一方、多くの人手と時間を要する。機械摘みは短時間で広い面積を収穫できるが、房を振動させて実を落とす仕組みのため果皮が傷みやすく、破砕前に果汁が漏れ出すこともある。傾斜地や小規模な畑では手摘みが選ばれることが多く、平坦で区画の大きい畑では機械摘みが効率的とされる。
品種や畑ごとの違い
収穫の判断は、品種そのものの性質にも左右される。皮が薄く傷みやすい品種は早めに収穫される傾向があり、皮が厚く病害に強い品種はより長く畑に置いておける場合がある。畑ごとの土壌や気候の違い(一般にテロワールと呼ばれる、産地固有の環境要因)も、糖度や酸度の上がり方に影響する要素の一つである。同じ産地・同じ品種であっても、収穫した年(ヴィンテージ)が異なれば天候の影響で仕上がりの印象が変わる点は、ワインの表示を見るときに意識しておきたい部分である。
家庭でワインを飲むだけでは収穫時期の判断まで意識することは少ないが、同じ品種でも年によって酸味や果実味の印象が変わるのは、収穫のタイミングが年ごとに違うためだと考えると納得しやすい。毎年同じ手順を機械的に繰り返すのではなく、ぶどうの状態に応じて判断を変えている点は、工業製品との大きな違いだと感じる。ヴィンテージ表示の意味も、この工程を知ると理解しやすくなる。
破砕・圧搾 ― 果汁を取り出す
除梗と破砕の役割
収穫したぶどうは、まず果実がついている軸の部分(梗)を取り除く除梗を行い、続いて果皮を破って果汁を取り出す破砕の工程に入る。破砕は果粒を潰して果汁を流れ出させる作業であり、種子を割らないよう圧力を調整する必要がある。種子の中の油分や苦味成分が果汁に混ざると、ワインの香味に望ましくない苦みが出やすくなるため、破砕の強さは品種や造り手の方針によって調整される。梗を残すかどうかも、渋みの出方に関わる選択の一つである。
水の使用と圧搾のタイミングをめぐる規定
破砕や発酵の工程では、設備の洗浄や発酵の補助を目的に水を使うことがあるが、果汁の糖度を薄めすぎないよう管理する必要がある。米国の連邦規則(27 CFR 24.176)では、天然ワインの製造において設備の洗浄や発酵の補助のために水を使用できるが、果汁の密度を22ブリックス未満に下げてはならないと定められている[3]。また、果汁がすでに23ブリックス未満である場合には、水の使用による密度の低下は1ブリックスを超えない範囲に限られるとされる[3]。この規定は、水で薄めることで果汁の糖分濃度が下がり、発酵後のアルコール度数が想定より低くなることを防ぐ目的を持つものと解釈できる。日本の酒税法には破砕・圧搾時の水の使用量そのものを直接定めた規定は見当たらず、この点については日本と米国で規制の切り口が異なる。
圧搾機の種類と果汁の質
圧搾には、板で挟んで圧をかける方式や、袋状の膜を膨らませて圧をかける方式など複数の方法がある。強い圧力をかけるほど多くの果汁を得られるが、種子や果皮から余分な苦味成分が出やすくなるため、圧搾の強さと果汁の量はトレードオフの関係にある。最初に弱い圧力で搾った果汁は雑味が少なく上質とされ、後段でより強く搾った果汁と分けて扱われることもある。圧搾のタイミングを発酵の前に置くか後に置くかは、赤ワインと白ワインで大きく異なる選択であり、次の発酵の章とその後の赤白比較で扱う。
発酵 ― 糖をアルコールに変える
酵母によるアルコール発酵の仕組み
発酵は、酵母が果汁に含まれる糖をアルコールと二酸化炭素に分解する反応である。ぶどう由来の糖分がすべてアルコールに変わるわけではなく、酵母の活動が止まる条件(アルコール濃度の上昇や糖分の枯渇など)に達すると発酵は終了する。発酵中は二酸化炭素が発生し続けるため、開放型のタンクでは表面に泡が立つ様子が観察できる。発酵温度や酵母の種類によって生成される香気成分の量が変わるため、造り手は温度管理を発酵設計の中心に置くことが多い。
補糖と酒税法上の分類
日照不足などで果実の糖度が十分に上がらない産地では、発酵前に糖類を加えて補う手法(一般に補糖と呼ばれる)がある。日本の酒税法施行令は、果実酒の原料について、加えた糖類の重量が果実に含有される糖類の重量を超えるものは、通常の果実酒とは別の酒類として扱われると定めている[1]。つまり、糖を加える行為自体が禁じられているわけではなく、加えた糖の量が元の果実に含まれていた糖の量を超えるかどうかで、酒税法上の分類が変わる仕組みになっている。さらに、酒税法第3条第13号ニでは、果実酒にブランデーやアルコール、政令で定めるスピリッツを加える場合、そのアルコール分の総量が加えたあとの酒類全体のアルコール分の総量の10%を超えないことが定められている[2]。この規定を超えてブランデー等を加えると、果実酒ではなく別の分類(甘味果実酒等)として扱われることになる。発酵を途中で止めて糖を残せば甘口寄りに、糖をほぼ発酵させきれば辛口寄りになる傾向があり、辛口・甘口という表現は発酵の進み方と直結している。
発酵容器と温度管理
発酵に使う容器には、ステンレスタンク、コンクリート製の槽、木製の桶などがあり、それぞれ熱の伝わり方や酸素の透過性が異なる。ステンレスタンクは温度管理がしやすく、果実の香りを保ちたい場合に選ばれやすい。木製の桶は温度変化が穏やかで、発酵と同時にごくわずかに木の成分がなじむとされる。発酵中の温度をどこまで許容するかは、抽出したい香味の方向性によって造り手が判断する部分であり、次章で扱う赤ワインと白ワインの違いにも直結する。
赤ワインと白ワインの造り方の違い
果皮・種とともに発酵させるか否か
赤ワインと白ワインの最大の違いは、果皮や種を果汁とともに発酵させるかどうかにある。赤ワインは黒葡萄の果皮や種を果汁に浸したまま発酵させ、果皮に含まれる色素(アントシアニン)とタンニン(渋みをもたらす成分)を抽出する。白ワインは黒葡萄・白葡萄のいずれを使う場合でも、果汁だけを搾り取ってから発酵させることが一般的で、果皮や種は発酵前の圧搾の段階で取り除かれる。この工程の違いによって、赤ワインは色が濃く渋みを感じやすく、白ワインは色が淡く渋みが少ないという特徴が生まれる。
発酵温度とマロラクティック発酵
赤ワインは色素やタンニンを十分に抽出するため、白ワインより高めの温度で発酵させる傾向があるとされ、白ワインは果実の香りを保つために低めの温度で管理されることが多いとされる。発酵後には、リンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵という工程が行われることがあり、酸味を和らげ、口当たりを丸くする効果があるとされる。赤ワインでは広く行われる一方、白ワインでは酸のキレを残すためにこの工程を行わない造り手もいる。
ロゼワインなど中間的な造り方
赤と白の間に位置するロゼワインは、黒葡萄の果皮を果汁に短時間だけ浸けたあとに搾り、色づきを浅い段階で止めて発酵させる造り方が一般的とされる。白ワインより短い浸け込みで搾ることで、タンニンの抽出を抑えつつ、わずかな色合いを残す点が特徴となる。同じ品種のぶどうでも、果皮を発酵にどこまで使うかという選択によって、仕上がりが赤・ロゼ・白のいずれの方向にも動きうる。
| 項目 | 赤ワイン | 白ワイン |
|---|---|---|
| 発酵させる原料 | 果汁+果皮+種 | 果汁のみ |
| 主に抽出される成分 | 色素(アントシアニン)・タンニン | 主に酸・果実香 |
| 圧搾のタイミング | 発酵後(果皮ごと発酵させてから搾る) | 発酵前(搾ってから果汁だけ発酵) |
| 渋みの強さ | 感じやすい | 少ない |
家庭で赤と白を飲み比べると、渋みの有無だけでなく香りの方向性も違うと感じることが多いが、その差は果皮を発酵に使うかどうかという工程の選択に由来する。同じ葡萄畑で採れたぶどうでも、造り方を変えれば赤にもロゼにも白にも近いスタイルになりうると考えると、ワインの造りの自由度がイメージしやすくなる。
樽熟成と瓶詰め ― 熟成から出荷まで
木材の種類とトースト(ロースト)
発酵を終えたワインは、タンクでそのまま貯蔵される場合と、木製の容器で熟成される場合がある。米国の連邦規則(27 CFR 24.185)では、天然ワインの処理に使用できる木材は、連邦食品・医薬品・化粧品法上の食品添加物の要件を満たすものに限られると定められている[4]。木材の形状は樽(バレル)、板材(ステーブ)、チップ、粒子、貯蔵タンクなど多岐にわたるとされ、ワインスピリッツの添加に使われたタンクを、そのワインの加熱処理に用いる場合にも使用できるとされる[4]。木材は燃焼を伴わない範囲で低温・中温・高温に加熱するトースト(ロースト)処理を施すことができるとされ、このトーストの度合いによってワインに移る香ばしさや香りの方向性が変わる[4]。
樽熟成で使用できる木材の形態として、規則上は次のようなものが挙げられている[4]。
- 樽(バレル)
- 板材(ステーブ)
- チップ
- 粒子
- 貯蔵タンク
樽熟成がワインに与える変化
木製の容器で熟成させると、木材由来の香気成分がワインに溶け込み、バニラや香ばしさに似た印象を加えることがあるとされる。加えて、木の板を通してごくわずかに酸素が透過するため、タンニンの角が取れて口当たりが穏やかになる変化も起こりやすい。すべてのワインが樽熟成を経るわけではなく、果実の香りを前面に出したい場合には、木の影響を受けにくいステンレスタンクでの熟成が選ばれることも多い。
瓶詰め前の調整とボトル熟成
熟成を終えたワインは、瓶詰め前に濁りの原因となる微細な粒子を取り除く清澄・濾過の工程を経ることが多い。瓶詰めの際には、酸化を防ぐために酸素との接触を最小限に抑える管理が行われる。瓶詰め後もワインは瓶の中でゆっくりと変化を続け、タンニンや色素の状態が時間とともに変わっていく。
瓶詰め後の保管では、次のような点が一般的に意識される。
- 直射日光を避けて保管する
- 温度変化の少ない場所を選ぶ
- 瓶を横置きにしてコルクの乾燥を防ぐ
結論
工程全体を振り返る
ワインの製法を工程ごとに追うと、赤と白の違いも、樽やボトルでの変化も、それぞれ根拠のある選択の積み重ねであることが見えてくる。収穫のタイミング、破砕・圧搾の方法、発酵での果皮の扱い、木材によるトースト、瓶詰め後の管理は、酒税法や海外の規則が触れている範囲だけを見ても、造り手が細かく判断している対象であるとわかる[1][2][3][4]。一つひとつの工程は独立しているのではなく、前の工程の判断が次の工程の選択肢を狭めたり広げたりする関係にある。
選ぶときに意識したい視点
家庭でワインを楽しむ立場からは、ラベルの品種や産地だけでなく、赤と白という造り方の違いに目を向けると、渋みや香りの印象がなぜ違うのかを自分なりに説明できるようになる。日本では20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されており、ワインを楽しむのは20歳以上が節度を保って行うものである。次にワインを選ぶ際は、赤か白かだけでなく、その一杯がどんな工程を経て届いたのかを想像してみると、味わいの理解が一段深まる。
あわせて読みたい
参考文献
- 酒税法施行令(e-Gov法令検索)第7条 果実酒の原料等(補糖の限度)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=337CO0000000097 - 酒税法(e-Gov法令検索)第3条第13号ニ 果実酒へのブランデー等・糖類の添加の限度
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=328AC0000000006 - 米国 27 CFR 24.176 Crushing and fermentation(破砕・発酵の規定・eCFR現行版)
https://www.ecfr.gov/current/title-27/section-24.176 - 米国 27 CFR 24.185 Use of wood to treat natural wine(樽・木材による処理・eCFR現行版)
https://www.ecfr.gov/current/title-27/section-24.185
