ビールの原料は酒税法上、麦芽・ホップ・水を基本とし、麦や米などの副原料を加える場合は麦芽の重量比率が50%以上であることが条件になる[1][2]。この比率と副原料の種類の違いが、ビールと発泡酒という酒税法上の区分を分ける境界線になっている。麦芽は甘みと色、ホップは苦みと香り、水は成分バランス、酵母は発酵とアルコール生成をそれぞれ担い、四つの原料の組み合わせ方が味の骨格を決める。以下では条文の記述に沿って、それぞれの役割と分類上の意味を整理する。
酒税法が定めるビールの原料と定義
ビールの定義を条文から読む
酒税法第3条第12号は、ビールを「アルコール分が二十度未満のもの」としたうえで、原料の組み合わせによって3つのパターンに分けている[1]。イは麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの、ロはこれに麦その他政令で定める物品を加えて発酵させたもの、ハはイ又はロにホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたものである[1]。この3区分がある理由は、麦芽・ホップ・水だけで造る場合と、副原料を加える場合とで、原料構成の条件が異なるためである。副原料を使わないイの場合、条文上は麦芽比率に関する数値要件が明記されていない。
麦芽比率50%とその意味
ロとハに当てはまる場合、条文は「その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る」と定めている[1]。つまり麦芽以外の副原料を使う場合、麦芽の重量が副原料全体の50%以上を占め、かつ政令で定める物品(麦・米・とうもろこし等)の重量が麦芽の重量の5%を超えてはならない。この50%という比率が、ビールとして扱われるか、発泡酒として扱われるかを分ける実務上の目印になる。国税庁の解釈通達では、麦芽を原料の一部として製造した物品を使う場合、その物品に含まれる麦芽の重量も含めて麦芽比率を計算するとされている[3]。
米国基準との比較
米国の連邦規則27 CFR 25.15は、ビールを麦芽または麦芽代替物から醸造しなければならないと定め、代替物として米・穀物・ふすま・グルコース・砂糖・糖蜜を挙げている[4]。さらに副原料(アジャンクト)として蜂蜜・果実・果汁・果汁濃縮物などの使用を認めている[4]。日本の酒税法が麦芽比率という数値基準で区分するのに対し、米国の規則は使用可能な原料の種類を列挙する形式をとっている点が異なる。この違いは、どちらが厳格かという単純な優劣ではなく、規制の設計思想が異なることを示す一例として読める。
日本と米国で原料の定義の作り方自体が違う点は、家庭で海外ビールの成分表示を眺めるときに気に留めておきたいところである。国内表示だけを基準に「これは邪道だ」と決めつけるのは早計で、規制の枠組みが違えば当然に許容範囲も変わってくると編集ラボとしては考えている。
麦芽(モルト)の役割
麦芽とは何か
麦芽とは大麦を発芽させて乾燥させたもので、酒税法上ビールの必須原料の一つに位置づけられている[1]。発芽の過程で大麦の中にでん粉を糖に分解する酵素が生成され、この酵素の働きによって、後の仕込み工程ででん粉が糖に変わり、酵母が発酵できる状態になる。麦芽は単に原料の一つというより、糖化という工程そのものを可能にする鍵になる存在である。
甘みと色、そしてアルコール源としての役割
麦芽から得られる糖は酵母によってアルコールと炭酸ガスに変換される、いわばビールのアルコール度数のもとになる部分である。同時に麦芽の焙煎度合いによって色合いと風味の方向性が変わり、淡い色の麦芽を使えば軽やかな味わいに、濃色の麦芽を使えばカラメルやローストの香りが強く出やすくなる。この色と風味の違いは、麦芽の種類の選択と配合によって生まれるものであり、麦芽単体の性質だけでなく、どの麦芽をどう組み合わせるかという設計の問題でもある。
麦芽比率と味わいの変化
酒税法上の麦芽比率50%という基準は、味わいの濃淡と直結する数値ではないが、副原料の比率が増えるほど、麦本来の穀物由来の風味が相対的に薄まりやすい傾向は理解しておきたい。米やとうもろこしといった副原料は、条文上「政令で定める物品」として認められているが、麦芽の重量の5%を超えて使うと、ロ・ハの原料構成から外れてしまう[1][2]。つまり副原料の使用量には、酒税法上の分類を維持するための上限が存在する。
ホップの役割
苦みと香りを生む部位
ホップはビールに苦みと香りを与える原料として、酒税法第3条第12号に麦芽・水と並んで明記されている[1]。国税庁の解釈通達では「ホップ」の範囲について、ルプリン・フムロン又はホップエキスを含むと取り扱うとされている[3]。ルプリンはホップの雌花にある樹脂状の粒で、苦み成分や香り成分の大部分がここに含まれる。フムロンは苦み成分の主要な化合物であり、加熱の過程で異性化して苦みとして感じられる形に変わっていく。
酒税法上のホップの範囲
ホップエキスも「ホップ」として扱われる点は、実務上重要な取扱いである[3]。生のホップ花だけでなく、抽出したエキスを使った場合でも、酒税法上はホップを原料として使ったことになる。この解釈があることで、ホップの使用形態(ペレット状、エキス状など)にかかわらず、ビールの原料としての位置づけが揺らがない構造になっている。
ホップの投入タイミングと役割の違い
ホップは煮沸の早い段階で加えれば苦みが強く出やすく、後半や煮沸後に加えれば香りの成分が残りやすいという性質の違いがある。この投入タイミングの調整によって、同じホップ品種でも苦み主体の仕上がりと香り主体の仕上がりを作り分けることができる。近年よく耳にする「ホッピーな香り」という表現も、この投入タイミングの工夫と関係していることが多い。
苦みの感じ方は個人差が大きく、同じビールでも「苦い」と感じる人と「思ったより穏やか」と感じる人がいる。家庭で複数のスタイルを飲み比べる際は、ホップの品種名だけでなく、苦みと香りのどちらを主体にした造りなのかを意識すると、好みの傾向がつかみやすくなると編集ラボとしては感じている。
水と酵母の役割
水がビールの成分に与える影響
水は麦芽・ホップと並んで酒税法に明記された基本原料である[1]。仕込みに使う水の性質(ミネラルの含まれ方など)は、糖化や煮沸の過程を通じてビールの味わいの土台に影響するとされる。ただし、水の成分と味わいの関係を数値で示す規定は、今回参照した酒税法・施行令・解釈通達のいずれにも見当たらない。したがって水の役割については、酒税法上の必須原料であるという事実の範囲で理解し、成分ごとの効果を断定的に語ることは避けたい。
酵母の発酵作用とラガー・エールの違い
酵母は麦芽由来の糖を分解し、アルコールと炭酸ガスを生み出す発酵の主体である。酒税法の条文自体には「酵母」という語は明示されていないが、「発酵させたもの」という表現がビールの定義の核心にあり[1]、この発酵を担うのが酵母である。ビールの世界でよく使われるラガーとエールという分類は、使用する酵母の系統や発酵の温度帯の違いによるもので、酵母の性質の違いが仕上がりの香味の方向性を左右する。
発酵と酒税法上の「発酵させたもの」という要件
酒税法がビールを定義する際に一貫して使っている「発酵させたもの」という表現は、単に原料を混ぜただけでは酒税法上のビールに該当しないことを意味する[1]。麦芽・ホップ・水(と場合により副原料)を、酵母の働きによって実際に発酵させる工程を経て初めて、条文上のビールという酒類区分が成立する。この一文の重みは、原料の列挙だけでは見落としがちな部分である。
副原料とビール・発泡酒の分類
酒税法施行令が認める副原料
酒税法施行令第6条は、ロに規定する「麦その他の政令で定める物品」として次を挙げている[2]。
- 麦、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、でん粉、糖類
- 財務省令で定める苦味料若しくは着色料
- 果実(乾燥・煮つめ・濃縮果汁を含む)
- コリアンダーその他の財務省令で定める香味料
これらの物品は、麦芽の重量の5%を超えない範囲で使う場合に限り、ロ・ハの原料構成として認められる[1][2]。逆にこの範囲を超えて副原料を使う酒類は、ビールではなく別の酒類区分(発泡酒等)として扱われる。
ビールと発泡酒の境界線
国税庁の解釈通達では、発泡酒の定義として「麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有するもの」には麦芽又は麦を原料の全部としたものを含むとされている[5]。つまりビールの原料条件(麦芽比率50%以上、政令で定める物品5%以下等)から外れた麦芽・麦由来の発泡性酒類は、発泡酒として区分されることになる。両者の違いを整理すると次のようになる。
| 区分 | 原料構成 | 麦芽比率等の要件 | 出典 |
|---|---|---|---|
| ビール(イ) | 麦芽・ホップ・水 | 条文上、数値要件の明記なし | [1] |
| ビール(ロ) | 麦芽・ホップ・水+政令で定める物品 | 麦芽比率50%以上、政令物品5%以下 | [1][2] |
| ビール(ハ) | イ又はロ+ホップ又は政令で定める物品を加えて発酵 | ロと同じ要件 | [1][2] |
| 発泡酒 | 麦芽又は麦を原料の一部(又は全部)とした発泡性酒類 | ビールの要件から外れた場合に区分 | [5] |
米国の代替原料規定との比較
前述の27 CFR 25.15は、麦芽代替物として米・穀物・ふすま・グルコース・砂糖・糖蜜を、副原料として蜂蜜や果実・果汁類を挙げている[4]。日本の酒税法施行令が列挙する副原料(麦・米・とうもろこし・でん粉・糖類・果実・香味料等)と品目の傾向は近いが、比率要件の有無や区分の考え方は異なる[2][4]。このため、海外製ビールを手に取った際に「日本の酒税法上の分類とは前提が違う」と考えておくと、成分表示の読み方に混乱が起きにくい。
結論
麦芽・ホップ・水・酵母という四つの原料は、それぞれ単独で味を決めるわけではなく、麦芽比率や副原料の種類、ホップの投入タイミング、酵母の発酵条件が組み合わさって初めてビールの香味が形づくられる。酒税法が麦芽比率50%や副原料5%という数値でビールと発泡酒を線引きしているのも、原料構成が味わいと酒類区分の両方に関わる要素だからである[1][2][5]。原料の役割を条文の記述に沿って理解しておくと、缶や瓶の原材料表示を見たときに、なぜその酒類区分になっているのかが見えやすくなる。20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されており、妊娠中・授乳中の飲酒は胎児・乳児への影響が指摘されているため厚生労働省が控えるよう推奨している。持病があり服薬中の場合は、飲酒の可否を医師に相談したうえで、節度ある量を意識して楽しむことをすすめたい。
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参考文献
- 酒税法(e-Gov法令検索)第3条第12号 ビールの定義
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=328AC0000000006 - 酒税法施行令(e-Gov法令検索)第6条 ビールの原料
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=337CO0000000097 - 国税庁 酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第3条(ビールの定義・「ホップ」の取扱い)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sake/2-02.htm - 米国 27 CFR 25.15 Materials for the production of beer(eCFR現行版)
https://www.ecfr.gov/current/title-27/section-25.15 - 国税庁 酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第3条(発泡酒の定義=ビールの要件を外れた場合の区分)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sake/2-02.htm
