お酒を飲むと中性脂肪が上がりやすくなるのは、アルコール自体が1gで7kcalの高エネルギー物質であり、肝臓で脂肪酸やコレステロールの合成にも使われるためである[2]。9%の缶チューハイ500mLは、アルコール分だけで250kcalに達する[2]。糖質ゼロを掲げる酒類でも、アルコールが代謝される経路そのものが中性脂肪の材料になりうる点は変わらない。以下は20歳以上の飲酒者を前提に、公的資料に基づいて整理する内容である。
お酒と中性脂肪の関係|公的機関の説明を確認する
脂質異常症の定義と中性脂肪の位置づけ
厚生労働省のe-ヘルスネットは、脂質異常症を①高LDLコレステロール血症、②低HDLコレステロール血症、③高トリグリセリド血症(中性脂肪が血液中に多い状態)のいずれかを満たす病態と定義している[1]。「お酒 中性脂肪」という検索の背景には、この③にあたる高トリグリセリド血症が関わる。中性脂肪はエネルギーを貯蔵する役割を持つ脂質の一種であり、血液中の値が基準を超えると脂質異常症の診断対象になる[1]。この定義自体は飲酒量と直接結びつけたものではないが、アルコール代謝の過程で中性脂肪が作られる経路が存在するため、飲酒習慣との関連が論じられている。
LDL・HDLコレステロールと動脈硬化リスク
LDLコレステロールが血液中に多いと動脈の壁に付着し、動脈硬化を進行させる。高LDLコレステロール血症は動脈硬化の最も強力な危険因子とされる[1]。一方、HDLコレステロールは本来余分なコレステロールを回収する働きを持つが、これが少なくなる低HDLコレステロール血症もまた動脈硬化の危険因子である[1]。中性脂肪についても、脂質異常症を構成する3つの病態の一つとして位置づけられており、LDL・HDLと並んで健康診断で確認される代表的な指標である[1]。
家庭で健康診断の結果を見るとき、中性脂肪とLDL・HDLをまとめて「脂質」として捉えがちだが、それぞれ異なる基準で診断される病態であることは覚えておきたい。数値の意味を分けて理解すると、飲酒量を見直す際の判断材料が増える。
アルコールが中性脂肪を増やす仕組み
アルコールは1gで7kcalの高エネルギー物質
アルコールは1gあたり7kcalのエネルギーを持ち、炭水化物(1gで4kcal)や脂質(1gで9kcal)とは異なる代謝経路をたどる[2]。この数値だけを見ると脂質よりは低いが、酒類はアルコール度数によって総カロリーが大きく変わる。厚生労働省の資料では、9%の缶チューハイ500mLの場合、アルコール分だけで250kcalに達すると説明されている[2]。「糖質ゼロ」を訴求する飲料が増えているが、糖質の有無にかかわらずアルコール自体の高エネルギー性は変わらない[2]。
脂肪酸・コレステロール合成に回されるアルコール代謝
体内に入ったアルコールは酢酸を経てアセチルCoAという物質に変換され、ミトコンドリアでエネルギー源として使われる一方、脂肪酸やコレステロールの合成にも利用される[2]。アルコール性脂肪肝と呼ばれる状態には、食事由来の脂肪だけでなく、アルコール自体から作られた中性脂肪も含まれている[2]。つまり酒だけを飲んで食事の脂質を控えていても、アルコールの代謝経路そのものが中性脂肪の生成に関わる。
「ビール腹」とアルコール性脂肪肝の関係
アルコールの代謝が進んでいる間は、体はそのエネルギーを優先して使うため、食事から摂った脂肪などの栄養素は代謝されずに蓄積されやすい[2]。厚生労働省の資料は、この仕組みが多量飲酒者に見られる腹部の脂肪蓄積(いわゆる「ビール腹」)の一因になり得ると説明している[2]。ここでいう「多量」がどの程度の量を指すかは資料内に明確な数値が示されていないため、後述する純アルコール量の考え方と合わせて捉える必要がある。
糖質ゼロのお酒でも中性脂肪が上がりうる理由
糖質とアルコールは別の経路で脂質に変わる
糖質(炭水化物)は1gで4kcalのエネルギーを持ち、通常はブドウ糖として使われるか、余った分が中性脂肪として蓄えられる[2]。アルコールは1gで7kcalとエネルギー密度が高いうえ、酢酸からアセチルCoAに変換される過程で脂肪酸やコレステロールの合成にも使われるため、糖質とは別の経路からも中性脂肪の材料が供給される[2]。したがって糖質ゼロの酒類を選んでも、アルコール度数が高ければアルコール由来のエネルギー摂取量は変わらない。
エネルギー量で酒類を比較する
数値で比較すると、栄養素ごとのエネルギー密度の違いが分かりやすくなる。
| 栄養素 | エネルギー(1gあたり) | 出典 |
|---|---|---|
| アルコール | 7kcal | [2] |
| 炭水化物 | 4kcal | [2] |
| 脂質 | 9kcal | [2] |
9%の缶チューハイ500mLの例では、アルコール分だけで250kcalに達する[2]。度数が高い酒類やロング缶、複数杯の重ね飲みは、糖質の有無にかかわらずエネルギー摂取量を押し上げる要因になる。
家庭で「糖質ゼロだから安心」と考えて飲む量が増えることがあるが、アルコール自体のエネルギーは糖質の有無と関係しない。度数と飲む量の両方を意識したほうが、実際の摂取エネルギーには近づきやすいと感じる。
脂質異常症・メタボリックシンドロームとの関わり
生活習慣病としてのメタボリックシンドローム
厚生労働省はメタボリックシンドロームの要素として肥満症・高血圧症・脂質異常症・高血糖(糖尿病)の4つを挙げ、これらはいずれも生活習慣病であり、飲酒の影響を受けると説明している[2]。中性脂肪の値が高い状態(高トリグリセリド血症)は脂質異常症に含まれるため、飲酒習慣は間接的にメタボリックシンドローム全体のリスクとも関わる。
- 肥満症
- 高血圧症
- 脂質異常症(高トリグリセリド血症を含む)
- 高血糖(糖尿病)
いずれも生活習慣病として飲酒の影響を受けるとされる要素である[2]。
慢性飲酒と脂質代謝異常・酸化ストレス
日本消化器病学会雑誌に掲載された総説は、アルコール性肝障害の病態がエタノール代謝による肝細胞の生化学的変化から始まり、肝脂肪化・酸化ストレス・脂質過酸化を経て発症・進行すると整理している[4]。同総説は、慢性的な飲酒に伴う脂質代謝を中心とした代謝異常や酸化ストレスの発現メカニズムを概説し、食事内容という環境因子と病態との関連、さらに肝障害に対する飲酒とメタボリックシンドロームの相加・相乗効果についても論じている[4]。中性脂肪の問題は、飲酒量だけでなく食事内容や他の生活習慣病の有無とも絡み合う。
HDLコレステロールへの影響は一様ではない
飲酒はHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させるとしばしば言われる。しかし人間ドック学会誌に掲載された研究では、男性喫煙者を対象に飲酒開始と禁煙が体重・HDL-Cに与える影響を検討した結果、飲酒行動の変化がHDL-Cの有意な変化につながらない事例が確認され、飲酒は必ずしもHDL-Cの増加につながるわけではないと結論づけられている[5]。この結果は、「飲酒すればHDLが増えて安心」という単純化された理解に注意が必要であることを示す一例である。
健康診断の結果表で中性脂肪とHDLが並んでいると、飲酒の影響を一律に考えたくなるが、研究によって結果が分かれる項目もある。数値ごとに一様な結論を急がない姿勢が必要だと感じる。
飲酒量を見直す目安|純アルコール量で管理する
純アルコール量の計算方法
厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添は、飲酒量を把握する方法として純アルコール量(g)に着目することを勧めている[3]。計算式は「純アルコール量(g)=摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコールの比重)」である[3]。度数とmlだけでなく、この式でグラム換算した値を見ることで、自分がどれだけのアルコールを摂取しているかを具体的な数値として把握できる[3]。
- 摂取量(ml)
- アルコール濃度(度数÷100)
- 0.8(アルコールの比重)
この3つを掛け合わせて純アルコール量(g)を求める計算方法である[3]。
見直しのきっかけになる場面
ガイドラインは、純アルコール量を認識することが疾病発症等のリスクを避けるための具体的な目標設定に役立つとしている[3]。中性脂肪や脂質異常症の値が気になり始めた場面、健康診断で指摘を受けた場面、あるいは飲酒量が増えていると自覚した場面は、純アルコール量に基づいて飲酒量を見直す一つのきっかけになる。持病がある場合や薬を服用している場合、飲酒量の調整については自己判断せず医師に相談する必要がある。
純アルコール量という考え方を知ってから、缶のラベルに書かれた度数とmlの見方が変わった。度数だけでは飲酒量の実感が湧きにくいが、グラム換算すると一日の目安との比較がしやすくなる。
結論
公的資料から分かること
公的資料を通して確認できるのは、アルコールが1gで7kcalの高エネルギー物質であり、代謝の過程で脂肪酸やコレステロールの合成に利用されるという仕組みである[2]。この仕組みは、中性脂肪が血液中に多い状態(高トリグリセリド血症)を含む脂質異常症や、メタボリックシンドロームという生活習慣病全体とも関わる[1][2]。一方で、飲酒がHDLコレステロールを一様に増加させるわけではないという研究結果もあり[5]、お酒を飲めば脂質の数値が良くなるという単純な理解は成り立たない。
判断に迷ったときの基本
中性脂肪の値や飲酒量について迷ったときは、まず純アルコール量[3]という具体的な数値で自分の飲酒習慣を把握することが出発点になる。家庭でお酒を楽しむ立場として言えるのは、度数や量を漠然と捉えるより、純アルコール量やエネルギー量という数値に置き換えたほうが、見直すべきかどうかの判断がしやすくなるという点である。健康診断で中性脂肪や脂質の値に指摘を受けた場合、あるいは持病・服薬中の場合は、飲酒の継続や量の調整について医師に相談することが基本になる。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと脂質異常症」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-014.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールとメタボリックシンドローム」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-005.html - 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添(2024年2月)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf - 大竹孝明・高後裕「メタボリック症候群と飲酒」日本消化器病学会雑誌 109巻9号(2012)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/109/9/109_1535/_article/-char/ja/ - 菊地恵観子ほか「男性喫煙者における飲酒開始と禁煙が体重およびHDLコレステロールに与える影響」人間ドック 30巻4号(2015)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/30/4/30_714/_article/-char/ja/
