飲酒と胃腸への影響|公的にわかる範囲で

飲酒と胃腸への影響|公的にわかる範囲で

お酒は食道や胃の粘膜に直接触れ、飲む量が増えるほど胃がんのリスクは段階的に高まる傾向がある。国立がん研究センターの解析では、缶ビール500mLや日本酒一合相当の純エタノール23g以上を毎日飲む男性で胃がん罹患リスクが上がり、1日92g以上では非飲酒者の1.29倍に達する[4]。空腹での飲酒は胃から小腸への流れ込みを速め、血中アルコール濃度を急に高めやすい[2]

目次

お酒が胃と食道に与える影響(公的にわかる範囲)

アルコールは消化管のほぼ全体に影響を及ぼす物質であり、不適切な飲酒は食道と頭頸部のがん、胃食道逆流症、マロリーワイス症候群、胃がん、結腸直腸がん、門脈圧亢進症など複数の疾患・症状の原因になるとされている[1]。ここでいう「不適切な飲酒」は量や頻度の問題であり、飲めば必ず病気になるという断定ではない。

胃酸分泌と胃食道逆流症

急性のアルコール摂取は下部食道括約筋(胃と食道の境目にあり、通常は胃の内容物が食道へ逆流しないよう締まっている筋肉)の圧を一時的に下げ、食道の蠕動運動の振幅も低下させることが、健康な人を対象にした検討で確認されている[5]。この変化は一過性で、投与後8時間および24時間の時点で食道の運動機能はもとの状態に戻ると報告されている[5]。飲酒後に胸やけやげっぷを感じやすくなる背景には、こうした一時的な機能変化が関わっていると説明されることが多い。

食道・頭頸部がんとの関連

日本では食道がんと頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)のがんが同じ人に多発したり重複したりする傾向が強く、飲酒と喫煙がその二大危険因子とされている[1]。男性の食道がんについては、少量の飲酒であっても発症リスクを上げる可能性が報告されている[1]。加えて、2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きが遺伝的に弱く、ビールコップ1杯程度で顔が赤くなる体質の人が、純エタノール換算で46g以上を習慣的に飲む場合、発がんリスクが著しく高まると報告されている[1]

胃がんリスクの量反応関係

国立がん研究センターが日本人を対象とした6つのコホート研究をまとめて解析した結果では、男性において飲まない群と比べ、1日のエタノール摂取量が23〜46g未満で1.09倍、46〜69g未満で1.18倍、69〜92g未満で1.21倍、92g以上で1.29倍と、飲酒量が増えるほど胃がん罹患リスクが段階的に上がる量反応関係が確認されている[4]。23gは缶ビール500mL一本、あるいは日本酒一合にあたる量である[4]。飲酒量が多い群(1日69g以上)では、噴門部(食道に近い胃の入口側)の胃がんのリスクが、それ以外の部位の胃がんより高い傾向にあったことも示されている[4]。女性については、飲む群と飲まない群のあいだで統計学的に有意な差は確認されなかったが、部位別に見ると男性と同様に噴門部でリスクが高くなる傾向が示されている[4]

Sakelore Labとして家庭で飲酒量を振り返る際、リスクの有無より先に「どれだけ飲んだか」を数値で確認する習慣が役立つと感じている。純アルコール量は缶や瓶のラベルに書かれていないことが多く、度数と量から自分で目安を確認する手間が要る。

アルコールの吸収と胃からの排出スピード

胃にとどまる間はゆっくり、小腸に入ると急速に吸収される

アルコールは胃の中にとどまっている間はゆっくりと吸収され、小腸に入ると吸収の速さが上がる[2]。したがって胃から小腸への排出(胃排出)が速いと、それだけ早く血液中のアルコールが増え、血中アルコール濃度が高くなりやすい[2]。アルコールの代謝はほとんどが肝臓で行われ、代謝の速さには酵素の遺伝子型や日頃の飲酒習慣が関わっている[2]

飲み方・食事の有無が血中アルコール濃度を左右する

同じ量の純アルコールを摂取する場合でも、食事をしながらビールを飲む場合と、空腹の状態で高濃度・少量のウイスキーや焼酎をストレートで飲む場合とでは、後者のほうが血中アルコール濃度がかなり高くなることが示されている[2]。食事の有無やアルコール飲料の種類・飲み方によって胃からの排出時間が変わり、それに応じて吸収の速さも変わるためである[2]。ウイスキーや本格焼酎(単式蒸留による焼酎)は蒸留酒であり、水割りやロックにせずストレートで飲む場合はアルコール度数が高い状態のまま胃に入る。こうした背景から、食べながら飲むこと、あるいは薄めて飲むことが推奨されるとされている[2]

胃を手術した人にみられる吸収パターン

胃潰瘍や胃がんの治療で胃を切除した人は、アルコールがすぐに小腸まで流れ込むため、ビール1缶(350mL)に相当する飲酒でも、吸収のパターンが通常と異なりうることが指摘されている[2]。胃という「ゆっくり吸収される場所」を経由しにくくなり、吸収の速い小腸へ直接アルコールが到達しやすくなるためと考えられる。胃の手術歴がある場合や持病がある場合の飲酒量は、自己判断ではなく医師に相談する必要がある。

空腹での飲酒に注意が必要な理由

「お酒を飲むと胃が痛い」ときに起きていること

飲酒後に胃のあたりの痛みや胸やけを感じる背景には、複数の要因が重なっていると考えられる。ひとつは、アルコールが下部食道括約筋の圧を一時的に下げ、食道の蠕動運動を弱めることで、胃の内容物が逆流しやすくなる変化である[5]。この変化は投与後8時間から24時間程度で通常の状態に戻ると報告されている[5]。もうひとつは、アルコールそのものが胃や食道の粘膜に直接触れることによる刺激である[1]。いずれも一時的な症状であることが多いが、痛みが強い場合や繰り返す場合は、自己判断で飲酒を続けず医療機関に相談することが望ましい。

空腹時に高濃度のお酒を飲むことの負担

空腹の状態では胃の中に食べ物がなく、アルコールが比較的短い時間で小腸に流れ込みやすいため、血中アルコール濃度が急に上がりやすい[2]。度数の高いスピリッツや本格焼酎をロックやストレートで飲む場面は、水割りやハイボールで飲む場面に比べて、同じ量の純アルコールでも体への負担のかかり方が異なると考えられる。飲酒前または飲酒中に食事をとることには、血中のアルコール濃度が上がりにくくなり、酔いにくくする効果があるとされている[3]

公的ガイドラインが示す飲み方の工夫

厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添では、飲酒に伴う負担を減らす工夫として次のような行動を挙げている[3]

  • あらかじめ飲む量を決めておく
  • 飲酒前または飲酒中に食事をとる
  • 飲酒の合間に水や炭酸水を飲み、アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにする
  • 一週間のうち飲酒をしない日を設ける

これらは胃腸そのものへの治療効果を示すものではなく、血中アルコール濃度の上がり方や飲酒行動を見直すための工夫として示されている[3]

個人差と体質の違い

ALDH2とフラッシング反応

アルコールの分解に関わる2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きには遺伝的な個人差があり、働きが弱い人はビールコップ1杯程度でも顔が赤くなるフラッシング反応が出やすい[1]。この体質の人が純エタノール換算で46g以上を習慣的に飲んだ場合、食道や頭頸部のがんの発症リスクが著しく高まると報告されている[1]。フラッシング反応の有無は自分の体質を知る目安のひとつになるが、反応が出ないからといって多量飲酒のリスクが下がるわけではない。

性差にみる胃がんリスクの出方

国立がん研究センターの解析では、男性は飲酒量が増えるほど胃がん罹患リスクが段階的に上がる関係が確認された一方、女性では飲む群と飲まない群のあいだに統計学的に有意な差は確認されていない[4]。ただし女性でも、部位別にみると噴門部の胃がんでリスクが高くなる傾向は男性と同様に示されている[4]。この差が体格や代謝の何によるものかについては、この解析の範囲では言及されていない。

胃の状態・既往歴による吸収の違い

胃潰瘍や胃がんの手術歴がある人は、アルコールが胃を経由せず小腸へ速く流れ込みやすいため、少量の飲酒でも通常と異なる吸収パターンになりうる[2]。健康診断で胃の状態について指摘を受けたことがある人や、服薬中の人は、飲酒量について医師に相談することが望ましい。妊娠中・授乳中の飲酒については、胎児・乳児への影響が指摘されており、厚生労働省が控えるよう強く推奨している。なお、20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されている。

Sakelore Labでは、体質や既往歴によって同じ量のお酒でも体への負担が変わりうる点を、飲酒量の話をするたびに意識している。家庭で飲む場合も、体調がすぐれない日や空腹の日は量を控える判断がしやすいと感じる。

純アルコール量からみる飲み方の目安

純アルコール量という考え方

飲む量を振り返るときの手がかりのひとつが「純アルコール量」である。国立がん研究センターの解析では、純エタノール量23gが缶ビール500mL一本、あるいは日本酒一合に相当するとされている[4]。この量を基準に自分がどのくらいの純アルコール量を飲んでいるかを把握することが、あらかじめ量を決めて飲むという工夫の出発点になる[3]

飲酒量と胃がんリスクの目安

1日の純エタノール摂取量(男性、非飲酒者と比較)胃がん罹患リスク
23g未満基準(非飲酒者)
23〜46g未満1.09倍[4]
46〜69g未満1.18倍[4]
69〜92g未満1.21倍[4]
92g以上1.29倍[4]

23gは缶ビール500mL一本または日本酒一合に相当する[4]。表の数値は男性を対象とした解析結果であり、女性については同じ傾向が統計的に確認されていない点は前章で述べた通りである[4]

ガイドラインの工夫を胃腸の負担軽減にどう当てはめるか

あらかじめ量を決めておくことは、純アルコール量を基準に「今日はここまで」という線を引く行動につながる[3]。飲酒前・飲酒中に食事をとることは、血中アルコール濃度の急な上昇を避けることにつながり、空腹時の高濃度飲酒による負担を減らす方向に働くと考えられる[2][3]。水や炭酸水を合間に挟むことは、飲む量に占める純アルコール量そのものを減らす効果があるとされている[3]。休肝日を設けることは、毎日飲み続けることによる依存症発症リスクを避けるための工夫として位置づけられている[3]

結論

数値からわかる傾向と、わからないこと

公的資料から確認できる範囲では、飲酒量が増えるほど胃がん罹患リスクが段階的に上がる量反応関係が男性で確認されており、食道や頭頸部のがんについても飲酒との関連が指摘されている[1][4]。空腹での飲酒は血中アルコール濃度を急に高めやすく、下部食道括約筋の圧を一時的に下げて逆流しやすい状態をつくることも示されている[2][5]。一方で、女性における胃がんリスクの出方や、体質差がどこまで影響するかについては、今回参照した資料の範囲では詳細まで説明されていない部分も残る。

家庭で意識できること

Sakelore Labとしては、飲む量そのものより「どう飲むか」を先に決めておくことが、胃腸への負担を考えるうえでの実践的な一歩になると考えている。家庭で飲酒量を見直す際は、次のような点を目安にできる。

  • 純アルコール量を把握し、あらかじめ飲む量を決めておく
  • 空腹での高濃度・少量飲酒を避け、食事とともに飲む
  • 飲酒の合間に水や炭酸水を挟む
  • 一週間のうち飲酒をしない日を設ける
  • 胃の不調が続く場合や持病・服薬がある場合は自己判断せず医師に相談する

これらはいずれも治療や予防を断定するものではなく、公的資料が示す範囲の目安である。体調や既往歴は人によって異なるため、不安がある場合は医師や薬剤師に相談したうえで飲酒量を判断することが望ましい。

参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの消化管への影響」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-01-010.html
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」
    https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-02-002.html
  3. 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」別添(2024年2月)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
  4. 国立がん研究センター がん対策研究所「日本人における飲酒と胃がんリスク」(6コホートのプール解析)
    https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/8904.html
  5. Physiologic and molecular effects of alcohol in the esophagus: a narrative review(PMC12327149)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12327149/

この記事を書いた人

お酒を飲むより、度数や製法を調べて表にするほうが好きかもしれない、データ気質の編集ラボです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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