テキーラは、米国の連邦規則(27 CFR)でもメキシコに固有の産品と位置づけられるアガベ蒸留酒であり、メキシコ国内で同国の法規制に従って製造されることが条件になる[1]。原産地呼称制度によって生産地域が特定の地理的環境と結びつけられ、テキーラ規制委員会(CRT)が品質と産地の関係を認証する仕組みを持つ[2]。メスカルも同じ規則の中でメキシコの特産品として区分されるアガベ蒸留酒だが、テキーラとは別の類型として扱われている[1]。
テキーラとメスカルを規定する法的枠組み
テキーラとメスカルは、いずれも単独の酒類ではなく「アガベ蒸留酒」という大きな括りの中に位置づけられている。米国の連邦規則はこの二つをそれぞれ独立した類型として定義し、その出自をメキシコに限定する形で規定している。
メキシコに固有の産品という米国の位置づけ
27 CFR § 5.148は、アガベ蒸留酒の類型と各類型に適用される規則を定めている。その中でテキーラはメキシコに固有のアガベ蒸留酒と位置づけられ、メキシコ国内で製造され、かつメキシコの法規制に準拠していることが条件として明記されている[1]。同じ条文はメスカルについても同様にメキシコに固有のアガベ蒸留酒として扱っており、メキシコで製造されることが条件になる点はテキーラと共通している[1]。抜粋の範囲では、この二つの酒類がそれぞれ類型ごとの規定(Type Standards)を持つとされているが、その規定の具体的な内容までは示されていない。
原産地呼称(DOT)とテキーラ規制委員会(CRT)
原産地呼称は、品質や特性が特定の地理的環境と本質的に結びついている産地を示す地理的表示の一種であり、テキーラの原産地呼称(DOT)はこの考え方に基づく制度である[2]。CRTはこの原産地呼称の運用にあたり、真正性と品質の証明を担う組織として説明されている[2]。抜粋には、CRTが具体的にどの州・市町村を対象地域として指定しているかまでは記載されていないため、対象地域の細目についてはここでは踏み込まない。テキーラの主産地としてはハリスコ州が広く知られており、原産地呼称の議論もこの地域を軸に語られることが多い。
日本における地理的表示としての保護
日本とメキシコの間では、経済上の連携の強化に関する協定(平成17年4月1日発効)に基づき、両国間で地理的表示の相互保護が行われている[3]。この協定のもとで、メキシコ側はテキーラ・メスカル・ソトール・バカノラ・チャランダを蒸留酒の地理的表示として日本国内で保護対象とし、日本側は壱岐・球磨・琉球・薩摩を蒸留酒の地理的表示としてメキシコ国内で保護対象としている[3]。この相互保護の枠組みは、酒税法上の品目分類とは別の制度であり、名称の使用制限という側面を持つ点が特徴になる。
- メキシコで保護される日本の地理的表示(蒸留酒): 壱岐、球磨、琉球、薩摩[3]
- 日本で保護されるメキシコの地理的表示(蒸留酒): テキーラ、メスカル、ソトール、バカノラ、チャランダ[3]
産地呼称と聞くと味の話を想像しがちだが、実際には法制度としての枠組みが先にあり、そのうえで品質や産地との結びつきが議論される構造になっている。家庭でラベルを眺める際も、原産地呼称や地理的表示という制度がどこまでを保証しているのかを意識すると、表示の意味を読み違えにくくなる。
ハリスコ州とテキーラの原産地呼称
テキーラの原産地呼称は、生産地域を特定の地理的範囲に限定する制度として機能している。この制度の中心にある考え方と、認証を担う組織の役割を分けて見ていく。
DOTが生産地域を限定する仕組み
原産地呼称(DOT)は、品質や特性がその土地の環境と結びついている産品について、生産地域を地理的に限定する制度である[2]。テキーラの場合、この結びつきの中心としてハリスコ州が知られているが、CRTの抜粋には対象地域の具体的な州・市町村の一覧までは記載されていない。したがって、原産地呼称が「どの範囲を対象にしているか」という細部については、公式の指定範囲を確認する必要がある事項として扱うのが適切である。
CRTが担う認証の役割
CRTは、原産地呼称の運用において真正性と品質の認証を担う組織として位置づけられている[2]。原産地呼称制度そのものは地理的表示の枠組みであり、認証機関の存在によってその実効性が支えられている構造になる。ワインの原産地呼称制度がテロワール(産地固有の自然環境)との結びつきを重視するのと同様に、テキーラの原産地呼称も地理的環境との結びつきを軸に組み立てられている点は共通している。
メスカルの呼称との違い
米国の連邦規則はメスカルもメキシコの特産品である蒸留酒として規定しているが[1]、CRTの抜粋はテキーラの原産地呼称制度について述べたものであり、メスカルの原産地呼称やその認証組織については触れていない。したがって、メスカルの生産地域の指定制度についてここで数値や範囲を述べることはできず、テキーラとは別の制度のもとで管理されている可能性がある点を踏まえておくのが妥当である。原産地呼称という発想は共有されていても、運用の細部は酒類ごとに異なるとみるべきである。
メスカルとは何か——テキーラとの区分
メスカルという言葉は「アガベを原料にした蒸留酒全般」を指す文脈で使われることもあるが、法的な区分としてはテキーラとは別の類型として整理されている。
米国連邦規則にみる両者の類型
27 CFR § 5.148は、アガベ蒸留酒の類型としてテキーラとメスカルをそれぞれ個別に規定している[1]。両者に共通するのは、メキシコの特産品である蒸留酒であり、メキシコ国内で製造されることが条件になる点である[1]。一方で、条文は「各類型には適用される規則がある」としており、テキーラとメスカルがそれぞれ異なる規定のもとにある類型として扱われていることが読み取れる[1]。
規定されていない項目に注意する
抜粋の範囲では、テキーラとメスカルの原料構成比、蒸留方式、熟成条件といった製法上の細目までは示されていない。したがって、この記事では「両者は共通してメキシコの特産品として規定されるアガベ蒸留酒である」という法的な括りまでを事実として述べ、それ以上の製法上の数値については、出典で確認できないため踏み込まないことにする。酒税法上の焼酎が単式蒸留(乙類)と連続式蒸留(甲類)で区分されるように、蒸留方式の違いが酒類の個性を左右する例は他の酒類にも見られるが、テキーラとメスカルの蒸留方式の規定内容そのものは今回の出典からは確認できない。
アガベ蒸留酒という共通の括り
テキーラとメスカルは、いずれもアガベという植物を原料とする点で共通しており、米国の連邦規則もこの二つを「アガベ蒸留酒」という同じカテゴリーの中の別類型として位置づけている[1]。醸造酒と蒸留酒の違いという酒類全体の大分類に当てはめれば、両者はともに発酵させた原料をさらに蒸留する工程を経る酒類であり、単発酵・単式蒸留を主体とする点で、原料を糖化させてから並行複発酵させる清酒とは異なる系譜に属する酒類といえる。
日本の酒税法とメキシコ産蒸留酒
テキーラやメスカルを日本国内で扱う場合、地理的表示による名称の保護と、酒税法上の品目分類は別の制度として整理する必要がある。
スピリッツとリキュールを分けるエキス分の基準
日本の酒税法第3条第20号は、スピリッツを「第七号から前号までに掲げる酒類以外の酒類でエキス分が二度未満のもの」と定義している[4]。ここでいう第七号から前号までとは、清酒からその他の醸造酒までの各品目を指す。エキス分(アルコール分を除いた糖分などの残存成分の割合を示す指標)が二度以上になると、原則としてリキュールという別の品目に区分される[4]。この規定はテキーラやメスカルという酒類名を直接挙げているわけではなく、あくまで品目区分の一般的な基準を示したものである。
テキーラ・メスカルの品目上の扱い
酒税法の抜粋には「テキーラ」「メスカル」という品目名そのものは登場しない。したがって、酒税法はこれらの酒類を個別の品目として定めているわけではなく、原料由来の成分がエキス分二度未満であればスピリッツに、二度以上であればリキュールに、それぞれの実際の成分に応じて分類される仕組みになっていると理解するのが妥当である[4]。この点は、法令に規定が無い事項を無理に規格値として扱わないという姿勢が必要な箇所であり、テキーラやメスカルという名称そのものに対する酒税法上の専用区分は、今回の出典からは確認できない。
地理的表示保護と酒税法上の分類の違い
日メキシコEPAに基づく地理的表示の保護は、テキーラやメスカルという名称の使用を制限する制度であり[3]、酒税法が定めるエキス分に基づく品目区分とは目的も条文も異なる[4]。前者は原産地との結びつきを示す名称の管理であり、後者は酒類の成分に応じた課税区分の管理である。この二つの制度を混同すると、「テキーラという名称が保護されている=酒税法上も専用の品目がある」という誤解につながりやすく、実際には両者は別の法体系のもとで運用されている。
| 制度 | 目的 | 根拠 |
|---|---|---|
| 米国連邦規則(27 CFR § 5.148) | アガベ蒸留酒の類型(テキーラ・メスカル)をメキシコ特産品として規定 | [1] |
| 原産地呼称(DOT)とCRTの認証 | 品質・特性と産地の結びつきを地理的表示として認証 | [2] |
| 日メキシコEPAの地理的表示相互保護 | テキーラ・メスカル等の名称使用を両国間で保護 | [3] |
| 日本の酒税法(スピリッツ・リキュールの区分) | エキス分の値に応じた酒類の品目区分 | [4] |
アガベとメキシコの蒸留酒文化
テキーラとメスカルという二つの酒類は、いずれもアガベという植物を原料とする点でメキシコの蒸留酒文化の中核をなしている。
アガベ蒸留酒が示す共通の起源
米国の連邦規則がテキーラとメスカルをともに「アガベ蒸留酒」という括りの中で規定していること自体が、両者がメキシコの同じ植物文化から生まれた酒類であることを法制度の面からも裏づけている[1]。原料となる植物が地域の環境に依存する点は、ワインにおける品種とテロワールの関係に近く、原産地呼称という制度が生まれる背景にもなっている[2]。
原産地呼称が担う文化的な意味
原産地呼称は品質保証の制度であると同時に、その土地固有の産品であることを対外的に示す仕組みでもある[2]。日メキシコEPAによる地理的表示の相互保護も、単なる貿易上の取り決めというより、産地と結びついた名称を国境を越えて守るという発想に基づいている[3]。日本の焼酎の地理的表示(壱岐・球磨・琉球・薩摩)がメキシコ国内で保護されている事実は、この発想が一方通行ではなく相互的なものであることを示す具体例になる[3]。
家庭で楽しむ際に踏まえておきたい点
テキーラやメスカルを含むすべての酒類について、20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されている。妊娠中・授乳中の飲酒は法律による禁止ではなく、胎児・乳児への影響が指摘されており厚生労働省が控えるよう推奨している事項であり、服薬中の飲酒については医師に相談することが望ましい。産地や制度の知識を深めることと、飲酒量を自分の体調に合わせて調整することは別の話であり、家庭で楽しむ場合も節度を保つ姿勢が前提になる。アガベ蒸留酒はアルコール度数が比較的高い酒類として知られており、量より背景を楽しむ飲み方は、体系的に酒類を理解したい読者には向いている。
結論
テキーラとメスカルは、米国の連邦規則の上でも共通してメキシコに固有のアガベ蒸留酒と位置づけられながら、それぞれ別の類型として扱われている[1]。テキーラには原産地呼称(DOT)とCRTによる認証という制度が存在し[2]、日本国内でもテキーラ・メスカルの名称は日メキシコEPAに基づく地理的表示として保護されている[3]。酒税法上はこれらの酒類名に専用の品目があるわけではなく、エキス分の値に応じてスピリッツかリキュールかが決まる仕組みになっている点も、名称保護の制度とは別に理解しておく価値がある[4]。編集部として振り返ると、産地や原産地呼称という言葉は品質の話としてだけ語られがちだが、実際には複数の法制度が層になって支えている構造そのものが興味の対象になる。ラベルに書かれた原産地呼称や地理的表示の意味を一つずつ確認する作業は、家庭で酒類を体系的に学ぶうえでの具体的な出発点になる。
参考文献
- 27 CFR § 5.148 Agave spirits(テキーラ/メスカルの区分・米国連邦規則集 eCFR)
https://www.ecfr.gov/current/title-27/part-5/subpart-I - テキーラ規制委員会(CRT)「Appellation of Origin」
https://www.crt.org.mx/en/appellation-of-origin/ - 国税庁「酒類の地理的表示一覧」2(日メキシコEPAによりテキーラ・メスカルが日本で保護される旨)
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/chiri/ichiran.htm - 酒税法(e-Gov法令検索)第3条第20号(スピリッツの定義)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=328AC0000000006
