球磨焼酎と人吉の文化|米焼酎のふるさと

球磨焼酎と人吉の文化|米焼酎のふるさと

球磨焼酎は熊本県球磨郡および人吉市で発酵・蒸留された米焼酎に限り名乗れる地理的表示(GI)で、国税庁が1995年6月30日に指定した産地区分である[3]。原料は国内産米と国内産米から造った米こうじ、水は球磨郡または人吉市内で採水したものに限られ、発酵・蒸留・貯蔵まで指定地域内で行うことが条件になっている[1]。人吉盆地特有の寒暖差と濃霧が低温発酵と貯蔵に適した環境をつくり、米由来の甘さと清涼感を帯びた香味が育つ[2]

目次

球磨焼酎とは何か——地理的表示(GI)「球磨」の枠組み

地理的表示(GI)とは、ある産地の名称を、その土地の自然的要因や伝統的な製法に結びついた酒類にのみ使用を認める表示制度である。国税庁が指定する酒類のGIには、球磨のほかにも複数の産地が並んでおり、いずれも「産地名=一定の品質・製法」を保証する仕組みとして機能している[3]。焼酎のGIとしては球磨のほか壱岐や琉球、薩摩などが古くから指定されており、清酒のGIである白山や、日本国全体を対象とする「日本酒」もこの制度に含まれる[3]

名称産地の範囲指定年酒類区分
壱岐長崎県壱岐市1995年蒸留酒
球磨熊本県球磨郡及び人吉市1995年蒸留酒
琉球沖縄県1995年蒸留酒
薩摩鹿児島県(奄美市及び大島郡を除く)2005年蒸留酒
白山石川県白山市2005年清酒
日本酒日本国2015年清酒

[3]の一覧が示す通り、球磨は壱岐・琉球と並んで1995年という早い時期に指定された焼酎GIの一つで、単式蒸留の蒸留酒として区分されている。

球磨のGI生産基準では、原料に関する要件が細かく定められている。穀類には国内産米のみを用い、こうじも国内産米から製造した米こうじのみを使う必要があり、水は熊本県球磨郡または人吉市内で採水したものに限られる[1]。この三点がそろってはじめて「球磨」の名称を使用できる仕組みで、原料の産地と仕込み水の産地を同時に縛っている点が特徴である。

製法についても同様に地域内での完結が求められる。発酵と蒸留は球磨郡または人吉市内で行われている必要があり、米・米こうじ・水を原料として発酵させたもろみを単式蒸留機で蒸留したものであることが条件になる[1]。さらに、米こうじと水だけで仕込んだもろみを使う場合は、その一次もろみに米こうじと水を加えてさらに発酵させたものに限るという追加条件があり、貯蔵を行う場合もその工程は球磨郡または人吉市内で行うことが定められている[1]。原料・発酵・蒸留・貯蔵という一連の工程が、指定地域内で連続していることを前提にした基準といえる。

GIの規定を読むと、産地名が単なるブランドの言葉ではなく、原料の出どころと工程の場所まで縛る制度だという点が分かる。家庭で球磨焼酎を選ぶ際も、こうした背景を知っているとラベルの見え方が変わってくると編集部では感じている。

人吉盆地の風土と香味の関係

球磨焼酎の香味は、産地の自然環境と結びつけて説明されている。熊本県球磨郡および人吉市は九州中央部の九州山地に囲まれた球磨盆地にあり、日本列島の中では低い緯度に位置しながら冬季の平均気温が低く、寒暖の差が大きい土地とされる。加えて濃霧の発生する日が多いことも、この地域の気候的な特徴として挙げられている[2]

このような環境が、比較的低温での発酵と、適度な環境での貯蔵を可能にしているとGIの生産基準では説明されている。低温発酵は香味の乱れを抑えやすく、清涼感のある香味につながる要因として位置づけられている[2]。盆地特有の寒暖差と霧が、発酵と貯蔵という二つの工程それぞれに影響を与えているという整理である。

香味の違いは蒸留方法によっても分かれる。単式蒸留は蒸留を一度だけ行う方式で、原料由来の香味成分が比較的多く残りやすい。球磨のGI基準では、常圧蒸留(大気圧に近い状態で行う蒸留)したものは香ばしさを伴った米特有の香りを持ち、減圧蒸留(気圧を下げて低い温度で蒸留する方式)したものは果実様の香りを持つと説明されている[2]。同じ原料・同じ産地であっても、蒸留の条件によって香りの方向性が変わる点は、米焼酎を選ぶときの目安になる。

盆地の気候条件と蒸留方式の組み合わせで香りの幅が生まれる構図は、ワインのテロワールの説明に近いものがあると感じる。家庭で球磨焼酎を選ぶときも、常圧か減圧かという表記に一度目を向けてみると、香りの違いを説明づけて楽しみやすくなる。

酒税法上の位置づけと本格焼酎としての性格

球磨焼酎は酒税法上、単式蒸留焼酎(一般に「焼酎乙類」または「本格焼酎」と呼ばれる区分)に分類される酒類である。酒税法第3条第10号では、単式蒸留焼酎に該当する酒類の要件がイからヘまで列挙されており、その一つに「穀類のこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの」という規定がある[4]。米・米こうじ・水を原料として単式蒸留機で蒸留するという球磨焼酎の造り方は、この単式蒸留焼酎の枠組みに沿うものである。

球磨焼酎は、この酒税法上の単式蒸留焼酎という分類に加えて、GIとしての追加条件を満たす必要がある。酒税法は単式蒸留機による蒸留であることを定めているが、原料米の産地や仕込み水の採水地までは酒税法自体には規定がなく、その部分を担っているのがGIの生産基準である[1][4]。つまり「単式蒸留焼酎であること」は酒税法が、「熊本県球磨郡・人吉市産であること」はGI基準が、それぞれ別の制度として担保している構造になる。

単式蒸留焼酎と対になる概念として連続式蒸留焼酎(焼酎甲類)があるが、酒税法第3条第10号が列挙する要件はいずれも単式蒸留機による蒸留を前提にしたものであり、連続式蒸留に関する規定はこの号の対象ではない[4]。単式蒸留は原料の風味を残しやすい蒸留方式であるとされ、米焼酎の香味の個性はこの蒸留方式と密接に結びついている。

米焼酎の製法と工程

米焼酎の仕込みは、まず米こうじと水でもろみを仕込む工程から始まる。GIの生産基準では、米こうじ及び水を原料としたもろみについて、その一次もろみにさらに米こうじ及び水を加えて発酵させたものに限るという条件が付されており、一段階だけの仕込みではなく、複数回にわたって仕込みを重ねる工程が想定されている[1]。この段階を経たもろみが、次の蒸留工程に送られる。

蒸留の工程では、発酵させたもろみを単式蒸留機で蒸留する。単式蒸留機は一度の蒸留で仕上げる装置で、連続式蒸留機に比べて原料由来の香味成分が残りやすいとされる。球磨焼酎の場合、この蒸留が球磨郡または人吉市内で行われていることがGIの条件になっており、原料の産地と蒸留の場所がともに地域内であることが求められる[1]

蒸留を終えた原酒は、必要に応じて貯蔵の工程に入る。GIの基準では、製造工程上貯蔵を行う場合は、その貯蔵も熊本県球磨郡または人吉市内で行うことが条件とされている[1]。人吉盆地の気候が適度な貯蔵環境を提供しているという説明[2]と合わせて読むと、貯蔵の場所を地域内に限定する規定には、単なる産地表示上の理由だけでなく、盆地特有の気候を活かす狙いもうかがえる。

球磨焼酎のGI基準が定める主な要件を整理すると、次のようになる。

  • 穀類(米)は国内産米のみを使用すること[1]
  • こうじは国内産米から製造した米こうじのみを使用すること[1]
  • 水は熊本県球磨郡または人吉市内で採水したものであること[1]
  • 発酵・蒸留は球磨郡または人吉市内で行うこと[1]
  • 蒸留は単式蒸留機によること[1]
  • 貯蔵を行う場合、その貯蔵も球磨郡または人吉市内で行うこと[1]

この六点は、原料・仕込み水・工程地・蒸留方式・貯蔵地のすべてを地域内に閉じ込める内容であり、GIの生産基準としては比較的厳格な部類に入るといえる。

人吉・球磨における米焼酎の飲み方文化

米焼酎の楽しみ方は家庭によって幅がある。一般的には、ロックや水割り、お湯割りなど香味の出方を変える飲み方が知られており、常圧蒸留由来の香ばしさを楽しみたい場面ではお湯割り、減圧蒸留由来の果実様の香りを楽しみたい場面では冷やしてロックで飲むといった選び方がされやすい。どの飲み方が優れているというものではなく、香味の特徴に応じて温度や割り方を変えられる点が、単式蒸留焼酎の楽しみ方の幅の広さにつながっている。

飲み方を選ぶ以前に、飲酒そのものについては前提を分けて理解しておく必要がある。20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されている。妊娠中・授乳中の飲酒は、胎児・乳児への影響が指摘されており厚生労働省が控えるよう強く推奨している事項であり、法律による禁止とは別の位置づけになる。服薬中の飲酒については医師に相談する必要があり、持病がある場合も同様である。米焼酎は単式蒸留焼酎で比較的アルコール度数が高い酒類であるため、水割りやお湯割りで割合を調整しながら、節度ある量にとどめる飲み方が家庭では実践しやすい。

結論

球磨焼酎は、原料米・米こうじ・仕込み水・発酵・蒸留・貯蔵のすべてを熊本県球磨郡と人吉市に閉じ込めるGIの生産基準によって成り立つ米焼酎であり、その香味は人吉盆地の寒暖差と濃霧という気候条件、そして常圧・減圧という蒸留方式の選択の両方から説明されている[1][2]。酒税法上の単式蒸留焼酎という大枠と、GIとしての地域限定の要件が重なることで、「球磨」という名称の使用条件が形づくられている[1][4]。編集部としては、ラベルの常圧・減圧の表記や割り方の違いを手がかりに、同じ米焼酎でも香りの方向性が変わる点を家庭で飲み比べながら確かめてみる、というのが次に試しやすい一歩だと考えている。

参考文献

  1. 国税庁「別紙 地理的表示「球磨」生産基準」(原料の要件)
    https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/chiri/180223_besshi02.htm
  2. 国税庁「別紙 地理的表示「球磨」生産基準」(産地に帰せられる特性・自然的要因)
    https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/chiri/180223_besshi02.htm
  3. 国税庁「酒類の地理的表示一覧」(「球磨」の産地の範囲・指定日・酒類区分)
    https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/chiri/ichiran.htm
  4. 酒税法(e-Gov法令検索)第3条第10号(単式蒸留焼酎の定義)
    https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=328AC0000000006

この記事を書いた人

お酒を飲むより、度数や製法を調べて表にするほうが好きかもしれない、データ気質の編集ラボです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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