ビールのスタイルを選ぶ基準は苦味・度数・香りの三点に整理でき、たとえばチェコ発祥のピルスナーはホップの効いた爽快な香味で度数4.0〜5.0%[2]、ドイツのドルトムンダーは苦味が弱く発酵度が高い分度数5.0〜5.5%とやや強い[2]。この違いを知っておくと、居酒屋の生ビールと輸入ラガーの味の差がどこから来るのかが体感でつかめるようになる。
ビールのスタイルを分ける軸は何か
酒税法が定める範囲
酒税法は第3条第12号で「ビール」を、麦芽・ホップ及び水を原料として発酵させたもの、あるいはこれに麦・米・とうもろこし等の副原料を加えて発酵させたものと定義し、アルコール分20度未満のものと定める[3]。施行令第6条はさらに、麦・米・とうもろこし・こうりやん・ばれいしよ・でん粉・糖類などを副原料として認めている[4]。副原料の重量が麦芽の重量に対して一定割合を超えないという条件を置いているのは、施行令ではなく酒税法の条文そのものである[3]。つまり酒税法が定めているのは「ビール」という品目の範囲とアルコール分の上限であり、ピルスナーやIPAといったスタイルそのものについては規定していない。
スタイル分類は業界団体・審査団体が担う
スタイルの体系を整理しているのは、法令ではなくビール酒造組合やBJCP(Beer Judge Certification Program)のような団体である。ビール酒造組合は世界の主なビールを紹介する中で、加熱殺菌(パストリゼーション)をしたビールと生ビール、麦芽100%のビールと副原料を使うビール、淡色・中濃色・濃色という色による分け方を示している[2]。BJCPはスタイルごとにIBU(苦味の指標)・SRM(色の指標)・OG・FG・ABV(度数)という数値レンジを個別に定義する枠組みを採っている[1]。分類の軸を整理すると次のようになる。
- 発酵方式による分け方(上面発酵のエールと下面発酵のラガーなど)
- 原料による分け方(麦芽100%か、米・コーン・スターチ等の副原料を使うか)[2]
- 色による分け方(淡色・中濃色・濃色)[2]
- 加熱処理による分け方(加熱殺菌ビールか生ビールか)[2]
法令の枠組みとスタイル分類は別のレイヤーにあるという点を押さえておくと、「アルコール分は法律で決まっているが、苦味や香りの傾向は業界の慣習で決まっている」という整理が腑に落ちやすい。
苦味・度数・香りで選ぶ
苦味の指標と香りの強さ
BJCPガイドラインはスタイルごとにIBU(国際苦味単位)で苦味の強さを数値化している。例えばアメリカン・ライト・ラガーはIBU8〜12という低い値域に定義され、ドイツのライトビール(Leichtbier)よりもさらにホップ香や苦味を抑えた設計とされる[1]。一方ピルスナーはホップの効いた爽快な香味を特徴とする淡色ビールで、このタイプが世界中で最も普及しており、日本の淡色ビールもこの系統に属するとされる[2]。苦味に不安がある人はIBUの低いスタイルから、爽快な苦味そのものを楽しみたい人はピルスナー系から試すという分岐で考えると選びやすい。
度数で選ぶ
同じ「ラガー」でも度数の幅は意外に大きい。ピルスナーはアルコール分4.0〜5.0%、ドルトムンダーは5.0〜5.5%とやや高めで、発酵度の高さゆえに日持ちが良く、今日の輸出用ビール(エクスポート)の先駆けになったとされる[2]。アメリカン・ライト・ラガーはABV2.8〜4.2%というさらに軽い度数帯に設計されており[1]、度数を抑えて飲みたい場面に向く。以下は今回参照した一次資料にある数値だけをまとめたものである。
| スタイル | 発酵方式 | 特徴 | アルコール度数 |
|---|---|---|---|
| ピルスナー | 下面発酵 | ホップの効いた爽快な香味の淡色ビール[2] | 4.0〜5.0%[2] |
| ドルトムンダー | 下面発酵 | 苦味は比較的弱いが発酵度が高い輸出タイプ[2] | 5.0〜5.5%[2] |
| アメリカン・ライト・ラガー | ― | IBU8〜12、ホップ香・苦味ともに控えめ[1] | 2.8〜4.2%[1] |
家庭でビールを楽しみながら学ぶ立場から見ると、この数%の差は「なんとなく重い」「なんとなく軽い」という感覚の正体を説明してくれる指標であり、ラベルの度数表記を見る習慣がついた後は選び間違いが減った実感がある。
IPAを選ぶときに見る点
IPA(India Pale Ale)は補助キーワードとしても検索されやすいスタイルだが、今回参照した一次資料にはIPA固有のIBU・ABVの数値レンジが含まれていないため、具体的な数値は挙げない。ただしBJCPのようにスタイルごとにIBU・SRM・OG・FG・ABVという指標を体系的に定義する仕組み自体は存在しており[1]、購入の際は商品説明に記載された数値をこの枠組みに沿って読む姿勢が有効である。ホップ由来の柑橘や樹脂を思わせる香りの強さは表記だけでは判断しづらいため、まず一本を試して自分の好みの方向を確かめる進め方が実務的である。
シーンで選ぶ
食事と合わせる場面
淡色で苦味が主体のピルスナー系は油分や塩気の強い料理と合わせると爽快感が引き立つ傾向があり、世界で最も普及している淡色ビールの型として日本の淡色ビールもこの系統に属する[2]。苦味や香りを強く主張しないタイプを選びたい場面では、度数を抑え苦味も控えめに設計されたライトラガー系の考え方を参考にするとよい[1]。
季節・気温で選ぶ
気温が高い時期はピルスナー系のような爽快な香味のスタイルや、度数を抑えたライトラガー系が飲みやすい。気温が下がる時期には、度数がやや高く発酵度の高いドルトムンダーのような輸出仕様のスタイルを選ぶと満足感が得やすい[2]。季節と度数の相性はあくまで好みの範囲であり、絶対的な規則ではない。
何人でどれだけ飲むか
複数人で長時間飲む場面では、度数の低いスタイルを基準に選ぶと後述する適量の範囲を守りやすい。一人でじっくり味わう場面では、度数がやや高く個性の強いスタイルを少量で楽しむという選び方も十分に成立する。
クラフトビール初心者のための選び方
まず飲み慣れたスタイルから広げる
世界で最も普及しているのはピルスナー系であり、日本の淡色ビールもこの系統に属するとされる[2]。普段飲んでいる淡色ビールがピルスナー系に近い可能性が高いため、そこを基準点にして苦味がもう少し強いもの、度数がもう少し高いものへと一段階ずつ広げていく進め方は、好みを無理なく把握しやすい。
生ビールと加熱殺菌ビールの違いを知る
ビール酒造組合の分類には、加熱処理(パストリゼーション)をしたビールとしない生ビールという軸がある[2]。クラフトビールの銘柄を選ぶ際、ラベルに「生」と表記されているかどうかも選び方のひとつの手がかりになる。
麦芽100%とその他原料を使ったビールの違い
もう一つの分類軸として、麦芽100%のビールと米・コーン・スターチ等の副原料を使用したビールという区別がある[2]。酒税法施行令も麦・米・とうもろこし・こうりやん・ばれいしよ・でん粉・糖類などを副原料として認めており、副原料の重量は麦芽の重量に対して一定割合を超えない範囲に制限されている[3][4]。次のような手順で試すと初めての一本で外れにくい。
- 麦芽100%表記のビールと副原料使用のビールを1本ずつ用意する
- 同じ温度帯で香りと口当たりの違いを比べる
- 苦味の強さと後味の長さをメモしておく
20歳以上であることと適量への配慮
法律で禁止されていること
20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されている。ビールはアルコール分が数%台であっても酒税法上の酒類であり、この2点に例外はない[3]。
健康面で配慮したいこと
妊娠中・授乳中の飲酒は法律による禁止ではなく、胎児・乳児への影響が指摘されており控えることが強く推奨されている。服薬中の飲酒も法律上の禁止ではなく、医師に相談すべき事項である。度数の高いスタイルを選ぶ場面では、同じ量を飲んでも体内に入る純アルコール量が増えるため、体調や翌日の予定に応じて量を調整する姿勢が実務的である。持病がある場合や服薬中の場合は、飲酒の可否について医師に相談することを推奨する。
結論
スタイル別の選び方は、苦味(IBU)・度数(ABV)・香りという3つの軸で自分の好みの位置を確かめ、そこから食事や季節といった場面に応じて調整していく作業に近い。酒税法はビールという品目とアルコール分の上限を定めるがスタイルそのものは規定しておらず[3][4]、スタイルの体系はビール酒造組合やBJCPのような団体が整理してきたものである[1][2]。家庭でビールを楽しみながら学ぶ立場から言えば、まずは飲み慣れたピルスナー系を基準にして、度数や苦味の異なるスタイルを一本ずつ試していく方法が、遠回りに見えて実は近道である。次に手に取る一本を選ぶときは、ラベルのABV表記と、生ビールか加熱殺菌ビールかという表示の両方を確認する習慣から始めるとよい。
参考文献
- BJCP Beer Style Guidelines(2021年版・ビアスタイル一覧)
https://www.bjcp.org/style/2021/beer/ - ビール酒造組合「ビールの種類」(世界の主なビール)
https://www.brewers.or.jp/tips/type.html - 酒税法(e-Gov法令検索)第3条第12号(ビールの定義)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=328AC0000000006 - 酒税法施行令(e-Gov法令検索)第6条(ビールの原料)
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=337CO0000000097
