ドイツワインの産地は連邦法ワイン法(Weingesetz)第3条により13の特定栽培地域(Anbaugebiet)に区分され、モーゼルやラインガウはリースリングの主要産地として知られる[1]。産地名がラベルに記載される根拠は個々の蔵元の判断ではなく、この条文が定める地域区分にある。オーストリアではブルゲンラント州などを含む3つのワイン生産地域が連邦州単位で定められており、ドイツとは異なる行政の組み方が採用されている[2]。
ドイツワイン法が定める13の特定栽培地域
ドイツのワイン法第3条は、上級ワイン(Qualitätswein)やプレディカートワイン(Prädikatswein)、原産地呼称付きの上質リキュールワイン、上質発泡性ワイン(Qualitätsperlwein b.A.)、地域限定のゼクト(Sekt b.A.)に用いることができる特定栽培地域を13地域に限定している[1]。条文にはAhr(アール)、Baden(バーデン)、Franken(フランケン)、Hessische Bergstraße(ヘッシシェ・ベルクシュトラーセ)、Mittelrhein(ミッテルライン)、Mosel(モーゼル)、Nahe(ナーエ)、Pfalz(プファルツ)、Rheingau(ラインガウ)、Rheinhessen(ラインヘッセン)、Saale-Unstrut(ザーレ・ウンストルート)、Sachsen(ザクセン)、Württemberg(ヴュルテンベルク)の13の名称が列挙されている[1]。
| 番号 | 地域名(独) | 日本語表記 |
|---|---|---|
| 1 | Ahr | アール |
| 2 | Baden | バーデン |
| 3 | Franken | フランケン |
| 4 | Hessische Bergstraße | ヘッシシェ・ベルクシュトラーセ |
| 5 | Mittelrhein | ミッテルライン |
| 6 | Mosel | モーゼル |
| 7 | Nahe | ナーエ |
| 8 | Pfalz | プファルツ |
| 9 | Rheingau | ラインガウ |
| 10 | Rheinhessen | ラインヘッセン |
| 11 | Saale-Unstrut | ザーレ・ウンストルート |
| 12 | Sachsen | ザクセン |
| 13 | Württemberg | ヴュルテンベルク |
出典: ドイツ Weingesetz §3[1]
モーゼルとラインガウ、リースリングの産地
モーゼルとラインガウは、この13地域のうち一般にリースリングとの結びつきが強いとされる産地である[1]。両地域は法令上、同じ「特定栽培地域」という枠組みに属する点で並列に扱われており、地域ごとの気候や土壌の違いはワイン法そのものには記載されていない。条文はあくまで地域の名称と数を定めるにとどまり、栽培品種や気候条件についての規定は同条には含まれていない[1]。したがって、リースリングとの結びつきを法令上の根拠として説明する場合、条文の列挙以上の記述をそこに求めることはできない。
特定栽培地域という枠組みの意味
「Anbaugebiet」という語は、単なる地理的な広がりではなく、上級ワインなど特定の品質区分のラベルに地名を記載するための法的な単位である[1]。裏を返せば、この13地域に含まれない場所で生産されたワインは、同条が対象とする品質区分の名称に地名を冠することができない。ラベルに産地名が記載されたワインを見たとき、その名称が条文上の13地域のいずれかに対応しているかを確認する視点は、ドイツワインを体系的に理解するうえでの出発点になる。次のような整理をしておくと、ラベルの読み方が変わってくる。
- 13地域はいずれも「Qualitätswein」「Prädikatswein」等の品質区分のラベルに用いられる単位である[1]
- 地域名の列挙は行政区分に基づくものであり、栽培品種の指定を含む条文ではない[1]
- モーゼル・ラインガウという名称も、この枠組みの中の一単位として位置づけられる[1]
家庭でドイツワインのラベルを眺めるとき、地名の響きだけで産地の個性を判断するよりも、その名称が13地域のどれに当たるのかを一度確認すると理解の筋道が立てやすくなる。編集の立場からは、地名と品質区分の結びつきを条文の側から見直す作業自体に発見がある。
甘さ・辛さを示す表示制度
甘口・辛口の区分は、ワインを選ぶ際に品種や産地と並んでよく参照される情報である。EUの委任規則2019/33の附属書IIIは、発泡性ワインの残糖量に応じて使用できる表示用語を定めている[4]。
スパークリングワインの残糖表示
同附属書によれば、残糖量が1リットルあたり0〜6グラムの範囲であれば「extra brut」、12グラム未満であれば「brut」の表示が可能とされる[4]。ドイツ語表記では「extra herb」「herb」といった語がこれに対応する[4]。この基準はEU域内で共通のスパークリングワイン表示制度であり、ドイツの地域限定ゼクト(Sekt b.A.)にも関わる枠組みの一部をなす[1][4]。
スティルワインの表示とEU規則との関係
一方で、モーゼルやラインガウで生産される非発泡性のワインについて、辛口・甘口を示す語ごとの残糖量の数値は、今回参照した条文の抜粋には含まれていない。ワイン法第3条は特定栽培地域の名称と数を定める条文であり、糖度や甘辛表示の基準そのものは別の規定に委ねられている[1]。附属書IIIが定める残糖表示はスパークリングワイン向けの用語であり、非発泡性ワインの甘辛表示に同じ数値をそのまま適用できるという記述は抜粋には見当たらない[4]。甘辛の程度を確認したい場合は、ラベルの表示語と、それぞれの規則が対象とする酒類の種類を分けて確認する姿勢が求められる。家庭でラベルを読むとき、trockenやbrutといった語の背後にどの規則が働いているかを意識すると、同じ「辛口」でもワインの種類によって基準が異なる可能性に気づきやすくなる。
オーストリアワイン法が定める産地区分
オーストリアのワイン法2009(Weingesetz 2009)は、連邦州の単位を組み合わせて3つのワイン生産地域(Weinbauregion)を定めている[2]。ドイツの13地域とは組み立てが異なり、州という行政単位そのものを地域区分の基礎に据えている点が特徴である。
3つのワイン生産地域
条文によれば、ブルゲンラント州、ニーダーエスターライヒ州、ウィーン市はヴァインラント(Weinland)を構成し、ケルンテン州、オーバーエスターライヒ州、ザルツブルク州、チロル州、フォアアールベルク州はベルクラント(Bergland)を構成し、シュタイアーマルク州単独でシュタイヤーラント(Steirerland)を構成する[2]。この3地域区分は、ドイツの13の特定栽培地域と異なり、複数の連邦州を束ねる場合と単独の州で一地域を構成する場合が混在している[2]。
- ヴァインラント: ブルゲンラント州・ニーダーエスターライヒ州・ウィーン市の3地域を束ねる区分[2]
- ベルクラント: ケルンテン州・オーバーエスターライヒ州・ザルツブルク州・チロル州・フォアアールベルク州の5州を束ねる区分[2]
- シュタイヤーラント: シュタイアーマルク州単独で構成される区分[2]
連邦州との対応関係
ヴァインラントに含まれるブルゲンラント州とニーダーエスターライヒ州は、オーストリア国内で生産量の多い地域としてしばしば言及される州であるが、条文自体が定めているのは州とワイン生産地域の対応関係である。条文の抜粋には「Weinbaugebiete sind:」として個別産地の列挙が続く記述が確認できるものの、今回参照した範囲では具体的な地名までは確認できない[2]。したがって、州単位の大枠を超えた個別産地の名称については、条文の該当箇所を別途確認する必要がある。所感として、ドイツの13地域とオーストリアの3地域という数の違いは、単に規模の差ではなく、行政単位をどう束ねるかという法制上の設計の違いを反映していると受け止めるのが妥当である。
EU法における原産地呼称制度
ドイツとオーストリアの産地区分は、それぞれ国内法で定められているが、上位の枠組みとしてEUの規則(EU)No 1308/2013第93条が原産地呼称と地理的表示を定義している[3]。
原産地呼称(designation of origin)の定義
同条によれば、原産地呼称とは、地域、特定の場所、または例外的に正当化される場合には国名を用いて対象産品を表す名称であり、その産品の品質や特性が本質的または専ら特定の地理的環境(自然的要因および人的要因を含む)に由来することが要件の一つとされる[3]。この定義が置かれている節は、規則がワイン分野の産品として掲げる範囲を対象とするもので、ぶどう酒の産地表示を規律する枠組みにあたる[3]。地域名を名乗るための要件が品質・特性と地理的環境の結びつきに置かれている点は、産地表示という制度の骨格を理解するうえで重要な出発点になる。
ドイツ・オーストリアの産地表示との接続
ドイツの特定栽培地域やオーストリアのワイン生産地域は、この原産地呼称・地理的表示制度の下で国内法によって具体化された単位と位置づけられる。ただし、13地域や3地域といった区分そのものが、EU規則第93条の定義とどのように対応するかについての具体的な記述は、今回参照した条文の抜粋には含まれていない。地域名がラベルに表示される背景には、国内法とEU規則という二つの層が関わっている点を理解しておくと、産地名の意味を読み取りやすくなる。家庭で輸入ワインのラベルを確認する際、地名の後ろに国内法とEU規則の両方が存在するという構造を意識するだけでも、産地名への向き合い方は変わってくる。
結論
ドイツワインの産地を理解する出発点は、モーゼルやラインガウといった個別の地名ではなく、ワイン法第3条が定める13の特定栽培地域という枠組みそのものにある[1]。オーストリアではブルゲンラント州などを含むヴァインラント、ベルクラント、シュタイヤーラントという3地域の区分が基礎になっており、ドイツとは異なる行政単位の組み方が採用されている[2]。甘辛の表示については、スパークリングワインの残糖量に応じた用語がEU規則で定められている一方[4]、非発泡性ワインの甘辛表示に関する数値は今回参照した条文の範囲では確認できず、規則の対象範囲を混同しないことが必要である。家庭でドイツやオーストリアのワインを選ぶ際には、ラベルに書かれた地名がどの法令上の単位に対応しているかを一度確認する習慣を持つと、同じ産地名でも異なる文脈で使われている可能性に気づきやすい。産地区分の枠組みを知ること自体が、個々のワインの味わいを語るための前提になる。
参考文献
- ドイツ Weingesetz 第3条(§3 Weinanbaugebiet/13の特定栽培地域)
https://www.gesetze-im-internet.de/weing_1994/__3.html - オーストリア Weingesetz 2009(連邦法・RIS 現行版/ワイン生産地域の区分)
https://www.ris.bka.gv.at/GeltendeFassung.wxe?Abfrage=Bundesnormen&Gesetzesnummer=20006524 - 規則(EU)No 1308/2013 第93条(原産地呼称・地理的表示の定義/EUR-Lex 原本)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32013R1308 - 委員会委任規則(EU)2019/33 附属書III(スパークリングワインの残糖表示用語/EUR-Lex 原本)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32019R0033
