世界のジンの産地|伝統と新興

世界のジンの産地|伝統と新興

ジンの産地は英国ロンドンを中心とする伝統的な産地と、欧米各国で広がる新興のクラフトジン産地に大別される。EU規則2019/787はジュニパーベリーで香りづけした蒸留酒をジンと定義し、最低アルコール度数を37.5%と定めている[1]。起源をたどるとオランダのジェネヴァがジンの原型とされてきたが、この由来説自体に学術的な検証の余地が指摘されている[4]。産地ごとの定義や製法の違いを知ると、ボトルのラベルに書かれた地名やスタイル名の意味が具体的に見えてくる。

目次

ジンとは何か、法規制に見る定義の骨格

ジンという名称は世界共通のようでありながら、実際には地域ごとに法令上の定義が異なっている。何を「ジン」と呼べるかは、蒸留方法や原料、香りの主体をどこに置くかという点で線引きされており、産地の話をする前提としてこの骨格を押さえておく必要がある。

EU規則が定めるジンの最低条件

EU規則2019/787の附属書I カテゴリー20は、ジンを、農業由来のエチルアルコールをジュニパーベリー(西洋ネズの実)で香りづけした蒸留酒と定義している[1]。同規則はジンの最低アルコール度数を37.5%と規定し、使用できる香味付けの原料をフレーバリング物質またはフレーバリング調製品に限定している[1]。度数の下限が明文化されている点は重要で、37.5%という数字はEU域内でジンと名乗るための最低ラインであり、これを下回るものはジンという名称を使えない。

米国連邦規則における「主香味」の考え方

米国の連邦規則集27 CFR § 5.144は、ジンをもろみからの直接蒸留、蒸留酒の再蒸留、あるいはニュートラルスピリッツにジュニパーベリーを加えて(または浸漬・パーコレーション・浸出によるエキスを用いて)作られる蒸留酒と定義している[2]。この規則の特徴は、製法を単式蒸留・連続式蒸留のどちらかに限定せず、主たる特徴的な香味がジュニパーベリーに由来することを条件にしている点にある[2]。EUが度数の下限という数値基準を持つのに対し、米国の規則は香りの主体がどこにあるかという性質面の基準を前面に出している。

日本の酒税法ではジンはスピリッツに分類される

日本では国税庁の解釈通達により、酒税法第3条第9号ニに該当するものが「いわゆるジン等」としてスピリッツに区分されている[3]。酒税法は品目としてスピリッツという枠組みを定めているが、この抜粋の範囲ではジュニパーベリーの使用量やボタニカルの種類、度数の下限といった具体的な規定内容までは示されていない。つまり日本の酒税法は「ジンはスピリッツという税制上の品目に入る」という位置づけを定める一方、EUや米国のような香味原料の細目規定を持つかどうかはこの抜粋からは確認できない。

家庭でボトルを選ぶとき、ラベルの度数表記や原産国名は税制上の分類とは別物であり、両者を一緒に考えると理解がこじれやすい。編集部としては、まず「どの国の規則で書かれた話か」を分けて読むことを勧めたい。

英国の伝統、ロンドンジンの成立

ジンの伝統的な産地として真っ先に名前が挙がるのは英国であり、なかでもロンドンジンという呼称は世界的に広く知られている。ただしこの呼称の背景には、大陸ヨーロッパから伝わった蒸留酒の系譜がある。

ジェネヴァからジンへ、オランダ起源説の検証

オランダの人々は自国の伝統的な蒸留酒であるジェネヴァ(jenever)を、英国のジンの原型だと誇りにしてきた。ライデン大学の記事は、ジェネヴァを17世紀に発明したとされるシルヴィウス教授の逸話を紹介しつつ、この由来説が「dubious(疑わしい)」ものであると指摘している[4]。同大学の記事タイトル自体が「The dubious Leiden roots of genever and gin」であることからも分かるように、ジェネヴァがジンの直接の原型であるという通説は、学術的には検証途中の言い伝えという位置づけに留まる[4]。産地の歴史を語るとき、こうした「誰もが知っている起源譚」ほど、実は史料的な裏付けが薄いことがある点は留意しておきたい。

ロンドンジンという呼称と製法上の特徴

ロンドンジンという呼称は地理的名称のように見えるが、EU規則の枠組みでは香味付けの方法に関する取り決めとして扱われる区分である。EU規則2019/787のカテゴリー20は、ジンに使用できる香味付けの原料をフレーバリング物質またはフレーバリング調製品に限定しており[1]、この枠組みの中でスタイルごとの製法上の線引きがなされている。ロンドンジンという名称が示すのは特定の地理的原産地表示ではなく、蒸留酒に対する香味付けの方法や度数といった製法上の条件を満たしたスタイル区分であり、実際に必ずしもロンドン市内で蒸留されている必要はないという理解が一般に流通している。この点は、ワインのように地理的表示(原産地呼称)そのものがスタイル名になっている酒類とは性格が異なる。

英国がジンの主要産地とされる背景

英国が伝統的なジンの産地として扱われる背景には、蒸留酒に対する香味付けの規則や名称の使われ方が英国発の呼称と結びついてきた経緯がある。EU規則における香味付けの原料規定[1]や、ジンという呼称そのものの定義[1]が、英国での慣用的なスタイル名と結びつく形で整理されてきたことが、英国を「ジンの伝統産地」と位置づける一因になっている。伝統と呼ばれるものの実態は、単一の発明者や単一の起源地に帰属するものではなく、複数の地域の蒸留文化と、後年の法規制上の整理が組み合わさって形成されてきたと見るほうが実情に近い。

世界に広がるクラフトジンの産地

ジンの産地は英国だけに留まらない。ジュニパーベリーで香りづけするという条件[1][2]を満たせば、原料となる農業由来のエチルアルコールをどこで発酵・蒸留するかという点では、世界各地に生産の余地がある。

欧州各地のクラフトジン生産

EU規則2019/787はジンという名称の使用条件を域内共通のルールとして定めており[1]、この規則が適用される範囲であれば、英国以外のEU加盟国で作られる蒸留酒もジンとして名乗ることができる。度数37.5%以上という下限[1]と、香味付けの原料をフレーバリング物質・フレーバリング調製品に限るという条件[1]を満たす限り、生産国そのものは規定の対象にならない。この枠組みの下で、欧州各国において独自のボタニカル選定や蒸留方法を掲げるクラフトジンの生産が広がっている。

北米・オセアニアなど新興産地

米国では27 CFR § 5.144の規定[2]に従い、もろみからの直接蒸留・再蒸留・ニュートラルスピリッツへの香味付けのいずれの方法でも、ジュニパーベリーを主たる香味の由来とすればジンと呼ぶことができる。この規則は蒸留方法を単式・連続式のどちらかに限定していないため[2]、小規模な蒸留所であっても製法上の自由度を確保しやすい枠組みになっている。米国以外の新興産地についても、この抜粋の範囲では固有の規制内容や具体的な生産実態までは確認できないため、ここでは一般的な傾向として、ジュニパーベリーを主香味とするという共通条件のもとで、各地域が独自の副原料を試みているという整理に留める。

日本のクラフトジンの位置づけ

日本国内では、酒税法第3条第9号ニに該当するジンはスピリッツという税制上の品目に区分される[3]。この抜粋からは、日本の酒税法がジュニパーベリーの使用や度数の下限について米国・EUのような細目規定を持つかどうかは確認できず、税制上の品目区分としてスピリッツに含まれるという点のみが読み取れる[3]。国内で近年見られるクラフトジンの生産の広がりは、このスピリッツという税制上の枠組みの中で、各生産者が独自の副原料を選びながら製品化を進めている動きとして理解できる。

家庭で世界各地のジンを飲み比べる際、原産国の違いよりも、まず度数と主香味の由来という共通条件[1][2]を確認するほうが、産地ごとの個性を落ち着いて捉えやすい。編集部の実感としても、産地名だけでスタイルを判断すると誤解が生じやすく、ラベルの記載を丁寧に読む習慣が理解の近道になる。

ボタニカルの地域性、共通原料と地域差

ジンを特徴づける最大の共通点は、ジュニパーベリーという単一の原料が主香味として法令上も指定されている点にある。この共通条件の上に、各産地・各生産者が独自の副原料(ボタニカル)を組み合わせる余地が生まれている。

ジュニパーベリーという共通原料

EU規則2019/787はジンをジュニパーベリー(Juniperus communis L.)で香りづけした蒸留酒と定義しており[1]、米国の27 CFR § 5.144も主たる特徴的な香味がジュニパーベリーに由来することを条件としている[2]。両者の表現は異なるものの、ジュニパーベリーを主香味の中心に置くという点では共通している。この共通条件があるからこそ、世界中のさまざまな産地で作られるジンが、ひとつの酒類カテゴリーとして成立していると言える。

地域ごとの副原料の傾向という論点

ジュニパーベリー以外にどのような副原料を組み合わせるかは、各生産者の裁量に委ねられている部分が大きい。米国の規則は「ジュニパーベリーと、任意でその他の芳香性原料」を用いることを認めており[2]、EU規則もフレーバリング物質・フレーバリング調製品という枠組みの中で副原料の使用を許容している[1]。この抜粋の範囲では、特定の地域がどの副原料を伝統的に用いてきたかという個別の産地データまでは確認できないため、ここでは「副原料の選定に地域差が生まれる制度的な余地がある」という構造の説明に留める。具体的な副原料の産地由来を語る場合は、個別の一次資料に基づいて確認する必要がある。

ボタニカル選定と規格上の制約

ボタニカルの選定は生産者の自由に見えるが、実際には各国の規則が定める枠組みの制約を受けている。EU規則はフレーバリング物質・フレーバリング調製品という区分を設け、その範囲内での香味付けのみを認めている[1]。米国の規則も、蒸留・浸漬・パーコレーション・浸出といった手法の列挙の中で副原料の使用を位置づけている[2]。つまりボタニカルの地域性とは、無制限な創作の結果ではなく、各国の規格が許容する範囲の中で生産者が工夫を重ねてきた結果として理解するのが適切である。

産地別の規定を比較する

これまでに見てきたEU、米国、日本の規定を整理すると、ジンという同じ名称の下でも、法令が着目する軸が異なることが分かる。

地域規定の主眼最低アルコール度数等の数値規定出典
EUジュニパーベリーによる香味付け、フレーバリング物質・調製品の使用制限37.5%以上[1]
米国主たる特徴的な香味がジュニパーベリー由来であること、蒸留方法は問わないこの抜粋では数値規定は確認できない[2]
日本酒税法上スピリッツという品目に区分(酒税法第3条第9号ニ)この抜粋では数値規定は確認できない[3]

表から読み取れる違い

EU規則は度数という数値基準を明文化している一方[1]、米国の規則は数値基準よりも香味の由来という性質基準を重視している[2]。日本の酒税法は、この抜粋の範囲では税制上の品目区分を定めるに留まり、度数やボタニカルの種類についての細目規定は確認できない[3]。同じ「ジン」という名称であっても、どの国の規則を根拠に語っているかによって、参照すべき条件がまったく異なる点は繰り返し確認しておく価値がある。

  • EUで「ジン」と名乗るには、度数37.5%以上という数値条件を満たす必要がある[1]
  • 米国で「ジン」と名乗るには、主香味がジュニパーベリー由来であるという性質条件を満たす必要がある[2]
  • 日本の酒税法上、ジンはスピリッツという品目に含まれるが、この抜粋からは度数やボタニカルに関する細目規定は確認できない[3]

結論

ジンの産地を「英国が本場」という一言で語ることは、法規制の実態からするといくつかの点で粗い。EU規則は度数という数値基準でジンを定義し[1]、米国の規則は香味の由来という性質基準を重視し[2]、日本の酒税法はスピリッツという税制上の品目区分に留める[3]。さらにジンの起源とされるジェネヴァとの関係についても、学術的には由来譚そのものに検証の余地が指摘されている[4]。編集部としては、産地や起源をめぐる通説をそのまま受け取るより、まず「どの国の規則に基づく話か」を切り分けて読む姿勢を勧めたい。家庭でジンを選ぶ際は、原産国の印象だけでなく、ラベルに記載された度数やスタイル名の意味を、こうした法令上の骨格に照らして確認してみると、産地ごとの違いがより具体的に見えてくる。

なお、20歳未満の飲酒および飲酒運転は法律で禁止されている。妊娠中・授乳中の飲酒は、胎児・乳児への影響が指摘されており厚生労働省が控えるよう強く推奨している。服薬中の飲酒は医師に相談する必要があり、持病がある場合も同様に医師に確認することが望ましい。

参考文献

  1. Regulation (EU) 2019/787 附属書I カテゴリー20(ジンの定義)
    https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32019R0787
  2. 27 CFR § 5.144 Gin(米国連邦規則集 eCFR/ジュニパーベリー由来の主香味)
    https://www.ecfr.gov/current/title-27/part-5/subpart-I
  3. 国税庁「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」第3条関係(ジン等の取扱い)
    https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sake/2-02.htm
  4. ライデン大学「The dubious Leiden roots of genever and gin」
    https://www.universiteitleiden.nl/en/news/2016/06/the-dubious-leiden-roots-of-genever-and-gin

この記事を書いた人

お酒を飲むより、度数や製法を調べて表にするほうが好きかもしれない、データ気質の編集ラボです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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